七月七日、七夕。ついにジラーチとの別れの日はやって来る。今日がジラーチと過ごせる最後の日なのだということは分かっていたが、にはいまいち実感が湧かずにいた。
いつものように起きて、三人揃って朝食を食べているとジラーチがねえ、とに話し掛けた。
「ナギサの街には灯台があるんだよね?」
「うん。行ってみる?」
「いいの!?」
「朝ご飯を食べ終わったら行こうか」
「やったあ!」
楽しみだなあ、と笑うジラーチに釣られてが笑った。ドンカラスも楽しみらしく、心なしかそわそわとしている。
朝食を終え、達はソーラーパネルの道路を歩いていた。ジラーチはリュックには入らずの腕の中におり、そしてその隣をボールから出たドンカラスが歩いている。
ナギサの街ではギンガ団が活動していないようだし、一昨日トバリのデパートに行った時のように、人がたくさんいるなら逆に目立たないだろうと思ったのだ。
「リュックの中とちがって、やっぱり眺めが良いなあ」
そう言ってジラーチは遠くの海を見てはしゃいでいる。途中からはジラーチがドンカラスの背中に乗って空高く飛んで急降下をしたり、のんびりと飛んだりして、二匹は楽しそうだ。
「中に入るから、戻ってね」
ジラーチを背に乗せて、ムックルと並んで少し離れていた所を飛んでいたドンカラスに声を掛けると、ドンカラスが頷いての元に戻ってくる。そしてそっと地面に降り立つと、ジラーチがドンカラスに礼を言っての腕の中へと戻った。
そして灯台の中に入ると、エレベーターに乗り込む。エレベーターの中でガラス張りの窓から見える景色に釘付けになっていたジラーチが、不意に口を開いた。
「ナギサの街、ぼく、好きだな」
「私も好き。良い街だから」
「うん」
そんな会話をしているとエレベーターのドアが開き、望遠鏡が並ぶ展望台へと着いた。ナギサの灯台はどちらかと言うと夕方の陽が沈む頃の方が賑わうので、昼前のこの時間はひっそりとしている。
「ぼうえんきょう!」
エレベーターを降りて辺りを見回していたジラーチは設置された望遠鏡に気がつくと、ノモセの大湿原での望遠鏡を思い出したのか、興奮した様子で声を上げる。そしての腕からするりと抜け出すと、望遠鏡の一つに近寄った。
「覗いていい?まだだめ?」
「いいよ。これはお金を払わなくても見えるから」
「そうなの!?」
ジラーチはそれを聞くや否や、望遠鏡を覗き込んだ。そしてうわあ、と声を上げる。とドンカラスはこっそり目を合わせると、笑ってしまった。
「、すごく大きな建物が見えるよ!」
「ああ、それはポケモンリーグだよ」
望遠鏡から眼を離したジラーチが不思議そうに首を傾げる。
「ポケモントレーナーが目標にしている所、かな。強いトレーナーやポケモンがたくさんいるの」
「そうなんだ!すごいねえ」
望遠鏡を覗いて見える景色に、ジラーチは夢中になっていた。ドンカラスも灯台の大きな窓から外を見ている。もドンカラスと同じように、外の景色を眺めた。大きな窓の向こうで揺らぐ海は今日も変わらず美しい。時折海面からホエルコが顔を出したり、テッポウオの群れが跳ねたりするのが見えた。
「、。大きい山が見えるよ」
「テンガン山だよ。ここ、シンオウ地方の真ん中にあるの」
その後もジラーチは望遠鏡を覗いては何かを見つける度にに尋ね、の返事に驚く、というのを繰り返した。
それから暫くして、行ってみたいなあ、とジラーチが漏らしたその呟きは、きっと無意識の内に出たものだったのだろう。それ程までに、その声は小さなものだったのだ。だがその言葉がはっきりと聞こえていたは、ジラーチに何かを言おうとして言葉を飲み込む。その代わりにそろそろ行こうか、と明るい声で言うと、もう一度窓の外を眺めた。
ナギサの海は、の心中に反して眩く太陽の光を反射して輝いていた。
それから灯台を出た達は、市場を訪れていた。市場の中は活気に満ちて、たくさんの人で賑わっている。様々な物が並び、様々な人が忙しく行き交う市場に、ジラーチはきらきらと眼を輝かせた。
「見たことがないものが、たくさん……!」
の腕の中で、ジラーチは忙しく辺りを見回しながら声を上げる。最初こそたくさんの人が行き交い、威勢良く客を呼び込む声に驚いていたが、次第に慣れてくると「あれは何?」などと尋ねてははしゃぐの繰り返しをする余裕が見られた。
「市場って広いんだねえ」
「うん。生活するのに必要なものは大体揃えられるよ」
「へえー!」
その後市場を隅々まで見て回った達は、シンオウ一強いと称されるナギサジムのジムリーダー、デンジの挑戦者との圧倒的な実力差のバトルを見学し、ナギサの街をぶらぶらと見て回った。
そうして夕食を食べようと家に帰る頃には、時刻はもう夕方を過ぎていた。