いつものように起きて、いつものように朝食を終えた後。リビングのカーペットの上で三人でのんびりと過ごしていると、仰向けに寝そべっていたジラーチがの服の端を掴んで呼んだ。


「どうしたの?」
がぼうっとしているから、呼んだの」

そう言うと、ジラーチはふふ、と笑い声を立てる。ジラーチの隣で丸くなっていたドンカラスも、の顔をちらりと見ると、先程のジラーチの言葉に同意するように頷いた。

「ねがいごとについて、考えていたからかな」
「まだ、きまらないの」
「……うん」

ジラーチの頭を撫でながら、は再び「ねがいごと」について考え始めた。今日はもうジラーチと出逢って四日目で、それでも未だに何を願うのかが決まらず、少し焦りを感じてしまう。

「ジラーチにねがいごとをしないっていうのは、だめなの?」

どうしても決まらないかもしれないし、と、ジラーチの頭を撫でる手を止めたが尋ねると、ジラーチは寝そべるのを止めて起き上がった。そしてドンカラスの体に背を預け、ぺたんと座る。

「できれば、ぼくはに、何かをねがってほしいな」

助けてくれたお礼に。そう言ってジラーチは笑顔を浮かべた。それからドンカラスの羽毛の柔らかさを楽しむように、闇色の体に頬を寄せる。

「……じゃあ、もう少し考えてみるね」
「うん」

ドンカラスの艶やかな翼を毛繕いするように撫でだしただったが、不意に何かを思い付いた表情を浮かべると、ジラーチへと視線を向けたた。

「……そうだ。ジラーチが叶えられないことって、あるの?」

少し疑問に思っていたことを尋ねると、ドンカラスもそれはどうやら気になったようで、自分の体に寄り掛かるジラーチの顔を覗き込んだ。

「ぼくが?ううん、そうだなあ」

ジラーチは腕を組むと、眼を閉じた。そして稍あって眼を開くと、あ、と声を上げる。

「いのちの形をかえることは、できないかなあ」
「……命の形?」

どういうことだろうか、ととドンカラスが不思議そうに首を傾げると、ジラーチは頷いた。

「たとえば、いのちをうばうこと。それから、うしなったいのちを、とりもどすこと」

それと、とジラーチは言葉を続ける。

「ドンカラスのねがいを叶えた時もだったけれども、ポケモンを進化させることも、できないかな。いのちのかたちを、かえること、だからね」
「だから、ヤミカラスに直接どうこうするんじゃなくて、やみのいしを出したんだね」

が納得したようにドンカラスと頷き合うと、ジラーチも揃って頷いた。

「まあ、ぼくに叶えられることで、がこころからねがうことなら、本当に、何でもいいんだよ。それにまだ、じかんもあるし」

ふああ、と欠伸をしながらジラーチが言う。そんなジラーチの様子を眺めていたは、あることが気になった。

「ジラーチ」
「ふあ、……うん?」
「ジラーチには、ねがいごと、ないの?」

ジラーチはその質問にひどく驚いたようだった。たった今していた欠伸は何処へやら、円らな瞳をぱちぱちと何度も瞬きさせている。それからゆっくりと口を開くと、の質問を確認するように「ぼく、に?」と尋ねた。

「うん。ジラーチの、ねがいごと」
「ぼくの、ねがいごと……」

ジラーチは驚いた表情から一変、難しい顔をする。そしてううん、と小さく唸ると黙りこくってしまった。

「ジラーチが心から願うことは、何か無いの?」
「うーん……」

首を捻り、真剣な顔つきでジラーチは考えている。願いを叶える立場のジラーチに何かねがいごとは無いのだろうかという興味本位で聞いてみたのだが、どうやらとても悩ませてしまっているらしい。私やドンカラスが叶えてあげられることなら、叶えてあげたいなあ。そう思いながら、はジラーチの言葉を待った。

それから暫くの間一言も喋らずに悩んでいたジラーチだったが、不意にじゃあ、と呟くと、とドンカラスを交互に見つめた。ドンカラスの頬をゆるゆると撫でていたは、手を止める。そしてジラーチの言葉の続きを待った。

「……やっぱり、なんでもない」
「えっ、言ってよ」

ドンカラスもそうだと頷く。ジラーチはとドンカラスの顔をちらりと見た後、一瞬眼を逸らし、それからおずおずと口を開いた。

と、ドンカラスと、たくさんのものを、見てみたい」

ジラーチの言葉にとドンカラスは顔を見合わせると、ふっと穏やかな笑みを浮かべた。途方も無いようなねがいごとだったらどうしようかと思っていたが、それくらいならば叶えてあげることはできるだろうと思ったのだ。


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