腕を組むジラーチの顔は、少しむくれている。

。なんで、起こしてくれなかったの」
「気持ち良さそうにねていたから……。それに、起こしたよ」

何度声を掛けても起きなかったんだよ。そうが困った顔でヤミカラスと顔を見合わせると、ヤミカラスも頷いた。

「もー!」

声を上げたジラーチが、ベッドの上で仰向けに倒れた。



ジラーチは昨日ヤミカラスと一緒になって眠ってしまった後、ヤミカラスが起きた後も起きる様子が無かったので、夕飯前に起こした。そして半分寝惚けた様子で、どうやら気に入ったらしいモモンの実をたくさん食べ、そしてまた暫く経つと眠ってしまったのだ。

とヤミカラスは夜の散歩に出掛けたのだが、その際ジラーチも行こうと声を何度掛けても起きなかった。結局ジラーチが眼を覚ましたのは、とヤミカラスが散歩から帰ってきて、随分経った頃だったのだ。日付はとうに変わってしまい、時刻は七月三日になってから十分程過ぎている。

「ふああ……、さんぽ、行きたかっ……、ふあ」
「欠伸をしながら喋らないの。……それとね」

あれだけ眠ったのに未だに眠そうなジラーチの頭を撫でながら、は言葉を続ける。

「ヤミカラスが、ねがいごとが決まったんだって」

日付が変わる前、ヤミカラスと散歩をした際、とヤミカラスはお互いのねがいごとについて話し合ったのだ。ヤミカラスの言葉が伝わるという訳では無いのだが、の言葉にヤミカラスが頷いたり、首を振ったりと反応を返してくれるので、何と無くで意思の疎通は出来るのである。

「ほんとに?きまった?」

ジラーチはの足元に立つヤミカラスを、きらきらと輝く瞳で見つめた。ヤミカラスはジラーチに向かって頷きながら、ぐえ、と短い鳴き声で応える。すると、ジラーチはベッドから浮かび上がり、ヤミカラスの眼の前に移動した。

「ヤミカラス、きみのねがいは、なあに?おしえて」

はヤミカラスとのやり取りで、ねがいごとが決まったのだということまでは知っていた。だが、何を願うのかまでは知らない。その為、ヤミカラスは一体何を願うのだろうかと、食い入るように見つめた。

が見守る中、ヤミカラスはジラーチに何かを伝えるような素振りを見せた。ジラーチが、頻りに頷いている。それから最後に「わかったよ」と口にすると、ジラーチの体が僅かに浮かび上がった。

「だいじょうぶ。まかせて、ね」

ジラーチは床から数センチの高さで浮かび上がったまま、両手を広げると眼を閉じた。それからすう、と息を大きく吸い込むと、ジラーチの頭の短冊のような飾りが輝きだす。短冊のような飾りが生み出す光は少しずつ眩さを増し、やがてジラーチの全身が光り輝いた。

そのあまりの眩しさに、とヤミカラスの二人は目も開けていられない程だった。そして少しの間を置いて、眩い光が収まったことを確認すると、とヤミカラスは揃って目を開く。すると未だに淡く優しい光を放つジラーチの前に、いつの間にか深い紫と黒が入り混じった石があった。

「ジラーチ……これは?」

とん、と床に足をつけたジラーチが、そっと眼を開く。それから、優しい笑みを浮かべた。

「ヤミカラスのねがい。”やみのいし”、だよ」

そう告げると、ジラーチはがよく見えるように、と丁寧な手付きでそっとやみのいしを持ち上げた。恐る恐る、はやみのいしをジラーチから受け取る。

「ヤミカラスは、つよくなるために、進化をしたかったんだって」

ね?とジラーチがヤミカラスに眼を向けると、ヤミカラスは赤い眼を細めて嬉しそうに頷いた。

「ヤミカラス……」

がやみのいしを持ったままヤミカラスに視線を落とすと、ヤミカラスはの足に体をすり寄せる。

「さすがにぼくの力でも、ヤミカラスをちょくせつ進化をさせることは、できないんだ。だからこういう形で、かなえることになったけれど」

ヤミカラスはジラーチに礼を言うように頭を下げた。それに対し、ヤミカラスが喜んでくれてよかった、とジラーチはヤミカラスの体を抱きしめる。

ジラーチが離れると、ヤミカラスはのことを真っ直ぐに見上げた。はやみのいしをもう一度目に焼き付けるように見つめると、屈み込んで、そっとヤミカラスの体に触れさせる。その瞬間、ヤミカラスの小さな体は温かな光に包まれた。

「綺麗だね……」
「うん」

ヤミカラスの体を包む光は少しずつ形を変え、軈てヤミカラスの体よりも大きな姿を形作る。そうして徐々に光が収まると、そこには今までの見慣れたヤミカラスの姿は無く、堂々とした姿の鳥ポケモンがしっかりと立っていた。

は何も言わずに、パートナーの体を抱きしめた。姿形は変わっても、肌から伝わる温かさは何も変わっていない。

「ヤミカラス……、じゃなくて、ドンカラス、だよね。改めて、よろしくね」

進化を遂げたパートナーに感動したが、思わず目に涙を湛えて微笑むと、ドンカラスはヤミカラスの時に比べて逞しくなった声で、もちろん、と応えるように鳴いたのだった。


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