海から帰ったはベッドに倒れ込み、そのまま気を失ったように眠ってしまった。海でジラーチとヤミカラスの二匹が遊んでいる間、もし万が一誰かが来て見つかってしまっては困ると、ずっと眠らずに神経を尖らせていたのだ。そのため、何事も無く帰宅して、気が緩んだのである。
そうして泥のように眠り、目を覚ましたのは、とうにお昼を過ぎた頃だった。ぼんやりとする頭のまま目覚まし時計を手に取ったは、針が指し示す時刻を見て今はもう昼の二時なのだということを理解し、昼夜が逆転してしまいそうだと思わず苦笑いを浮かべる。
それから自分のすぐ隣にある温もりに気がつくと、は目を向けた。いつの間にボールから出たのか、ヤミカラスがすやすやと寝息を立てて丸くなっている。ヤミカラスは寝過ぎでは無いだろうか、とは思ったが、そっと笑うとヤミカラスの背を撫でた。
「、おきたの」
不意にジラーチの声が聞こえ、が部屋の中を見回すと、ジラーチは出窓に座っていた。どうやら、窓から見えるナギサの海を眺めているようだ。ベッドから立ち上がると、はジラーチの座る出窓に近寄った。
「うん。今起きた。寝過ぎちゃったかな」
「おはよう」
おはよう、とが返すと、ジラーチは海を眺めるのを止めて出窓からふわりと浮かび上がり、それからヤミカラスへと眼を向ける。
「ヤミカラスは、まだねてる」
「……朝も寝ていたのになあ」
少し呆れたようにが笑うと、ジラーチはヤミカラスからへと視線を移した。
「トレーナーに、にたんだねえ。きっと」
その言葉に、がそんなこと言う?と、わざとらしく少し顔を顰めると、ジラーチが口元に手を当ててくすくすと笑う。それから、何かを思い出したような表情を浮かべると、を真っ直ぐに見つめた。
「そうだ。、ねがいごとは、決まった?」
「ううん、まだ。考えてはいるのだけれども」
腕を組んでが答えると、ジラーチは首を傾げた。
「なんにも、ないの?」
「うーん……」
「まあ、いいや。でも、ちゃんとあと六日のあいだに、決めてね」
努力するよ、と言いながらがジラーチの頭を撫でると、ジラーチは擽ったそうに眼を細めた。それから未だに眠るヤミカラスの元に向かうと、ヤミカラスの隣にふわりと降り立つ。
「ヤミカラスも、ねがいごとをかんがえとくって、言ってた」
「……ヤミカラスが?」
「うん」
長い付き合いであるパートナーのヤミカラスは、ジラーチに一体何を願うのだろう、とは考えた。自分自身が願うことは、まだ見つかりそうにない。今日を数えてあと六日。六日間で、自分の願うことははたして決まるのだろうか。
が少し難しい顔をしていたからか、ジラーチはの顔を見上げると穏やかに笑った。
「。がね、こころから、ねがうことでいいんだよ」
「うん……」
私が心から願うこと。ジラーチの言葉を、は反芻するように心の中で繰り返す。
「難しいなあ」
思わず呟いた言葉に、返事は無かった。ジラーチは眠るヤミカラスに釣られたのか、うとうととし始めている。
千年のうちの七日間だけ起きているとはいっても、その七日間の間も眠っていることが多いような気がするけれど。そう思ってはつい笑ってしまったが、折角の七日間なのだから、ジラーチが過ごしたいように過ごせば良いのだと考えると、仲良く眠るジラーチとヤミカラスの体にに薄いタオルを掛けてやった。