のんびりと過ごして午後を過ぎると、ジラーチの眠気は漸く覚めたようだった。今はヤミカラスと一緒になって、リビングのカーペットの上で縺れ合うようにして転げまわっている。ヤミカラスも遊び相手ができたことが嬉しいのか、楽しそうだ。
というのも、はポケモントレーナーではあるが、時々ナギサシティの近くの222番道路などでバトルをするだけで、各地のジムを回ったり、チャンピオンを目指している訳ではない。そのため、手持ちのポケモンはこのヤミカラスしかいないのだ。
「ー」
が二匹の様子を微笑ましく思いながら眺めていると、ヤミカラスと並んでひっくり返ったジラーチが呼んだ。
「どうしたの?」
が笑い掛けると、ジラーチは眼を細めた。
「ねがいごと、きまった?」
「ううん、まだだよ」
そんな早く決められないよ。そう困った表情を浮かべると、ジラーチはなあんだ、と言って笑った。それからまた、、と呼ぶ。も先程と同じように、どうしたの、と尋ねた。
「あのね。ぼく、そとを、みたいな」
ジラーチのその提案に、は思わず戸惑ってしまった。あのジラーチを追い掛け回していた、特徴的な格好をしていた男達がまだ外をうろついている可能性は十分にあると思ったのだ。
あの時は辺りが真っ暗でこちらの存在に気が付かれていなかったから、不意打ちの攻撃も成功して、あの数相手に逃げることが出来たけれど……。そう考えていると、難しい顔をしているのが分かったのか、ジラーチが起き上がり、の前にふわりと浮かび上がった。
「だめ?」
「うーん……。まだ、昨日の人達がジラーチを探しているかもしれないからなあ」
ジラーチを腕の中に閉じ込めながら言うと、ジラーチはの服をぎゅう、と握った。
「それは、いやだなあ」
ジラーチが悲しそうな顔をする。ヤミカラスもと同じく心配しているのか、不安そうな表情を浮かべた。
「じゃあ、暗くなってからでもいい?」
ジラーチの深く沈んだ顔を見つめながら、頭を優しく撫でる。すると、ジラーチはぱっと嬉しそうな顔をした。
「ほんと!?いいの?」
「うん。暗くなって、人気があまりなくなってからね。十分に気をつけて、外に行こうか」
ジラーチは歓喜の声を上げ、の腕をするりと抜け出すと、宙返りをした。それからヤミカラスの体に抱きつく。
「そと、たのしみだなあ。はやく、くらくならないかなあ」
ジラーチのあまりの喜びように、ヤミカラスも一緒になって喜んでいるようだ。二匹はきゃっきゃと笑い声を上げると、またじゃれ合いを始める。その様子を眺めながら、は「ジラーチはあと七日間の間しかいないのだから、いいよね」と自分に言い聞かせた。