その日も美しい朝陽をしっかりと見たとダークライは、草原の中心にある森の周りを歩いていた。空は澄んだ青色に染まり、その空をムクホークが気持ち良さそうに飛んでいる。ふと遥か上空のムクホークからすぐ傍の森へと目を向けたは、何かあるような気がしつつも入るのはあまり気乗りがしないなと思った。何より、この前のこともあってかダークライが危ないと止めるのだ。ダークライにまた迷惑や心配を掛けるのは申し訳ないし、もそれに大人しく従った。
「潮風が気持ちいいね」
「そうだな」
少し強めの潮風が吹いて、思わずは足を止める。それから急に海のある方へと走り出すと、それを慌ててダークライが追った。そして草原の端まで行ったは感嘆の声を上げる。草原の端まで行くと大体崖になっており海が見下ろせるのだが、そこには小さな波止場があったのだ。
「わあ、波止場だよ。波止場なんてあったんだね」
「が船から降りたのもここじゃないか」
「えっ、……そうだっけ?」
が唖然とした顔で言うとダークライは一瞬考えるような素振りを見せたが、すぐにもう一つの波止場だったか。と呟いた。はそれを聞いてそうだよ。もう、変なダークライと笑い、それに釣られるように思わずダークライも小さく笑う。波止場に降りると、はそこから海を見渡した。遥か地平線の彼方、真っ白な入道雲が空へと伸びている。
「……そろそろここを発たないとなあ」
「そうか」
「カントーにジョウト、ホウエン、そしてここ…シンオウって来たからね。次はイッシュに行こうと思ってるの」
「随分とまた遠くだな」
「ここも気に入ったし、離れるのも名残惜しいけどね」
そう言っては潮風に目を閉じる。
「……な……こ…い……だな」
「え?」
ダークライが何かを言ったのだが少し強めの風が吹いて潮騒に掻き消されてしまったため、が目を開けるとダークライは波止場の足場の下で揺れる海を見ていた。
「何、どうしたの?」
「いや、何か変な音がするなと思ったんだ」
ダークライの指差した方をが見ると、確かに波に揺られて何かがこつこつと波止場を支える杭に当たっていた。よく見るとそれは赤色をしており、ひしゃげて捻れてしまった空き缶のように見える。
「うーん、何だろ?」
「まあ、海からは様々な物が流れ着くからな」
ダークライの言葉通り、海からは様々な物が流れ着く。ガラスの瓶や空き缶、何かの欠片に流木だったりとそれらは様々だ。はダークライの言葉に頷くと草原へと振り返る。
「……そうだね。よし、そろそろ戻ろう」
「……ああ」
ダークライと並んで草原を歩きながら、は空を見上げた。先程のムクホークがまだ飛んでいる。
「あのムクホーク、よく飛んでいるのを見掛けるね」
「ああ、そうだな」
「あの森に巣でもあるのかな」
そんな他愛の無い話をしながら、は何と無く考え事をしていた。それは先程の波止場についてである。ダークライは最初、「が船から降りたのもここじゃないか」と言ったが、自分が不思議そうな返事をすると「違う波止場だったか」と言った。しかし、ここには波止場が二つもあっただろうか?そもそも、ここにどうやって自分は来たんだっけ?そうが考えていると、それを邪魔するように少しずつし始めた頭痛がを襲う。するとダークライがの名前を呼んだ。
「どうした、大丈夫か?」
「え、ああ、うん。考え事をしていたの。ちょっと頭痛がするけれど、大丈夫だよ」
「そうか。……確かに顔色が悪いな。少し休んだらどうだ」
ダークライはの背を支えながら、更に言葉を続けようとした。しかしすぐにそれを止めると空を見上げる。いつも見掛けるムクホークが森の上をぐるぐると旋回しているのが見えた。───森の中にムクホークの巣など無いことは知っている。波止場が二つも無いことも。しかしそれをダークライがに言えそうには無い。