あのお茶会以来、はポケモンの棲み処である小屋に、よく何かを持ってくるようになった。


ポケモンはずっと森の中で暮らしていたので、当然ながら森に無いものは見たことがなかった。それは例えば青緑色の透明なビー玉だったり、赤色のリボンだったり、星に似た形をした珍しい石だったり。これらは全部がポケモンに見せたもので、また、にとっては大切な宝物だった。自分の宝物をポケモンにも見せようと、家から持ってきたのである。眼の前でテーブルの上にそれらを広げているを尻目に、ポケモンは前足でビー玉を触ってみた。ころころと転がる度に光を受けて、ビー玉が光を反射する。

「そのいろがね、あなたのめとおなじいろだなっておもったの」

だから、その色のビー玉が一番好き。と続けたにそのポケモンは少し照れ臭そうに笑う。はポケモンに笑みを返すと、テーブルの上に広げた宝物を今日新しく持ってきた軽い木の箱の中に順に詰め出した。

「そういえば、あなたのたからものは?なにか、ある?」

最後に箱の中に赤色のリボンを入れてが声を掛けると、ポケモンは少し考え込む素振りを見せた後に、困った顔をした。

「たからもの、ないの?」

そう問われて、ポケモンは宝物とは何だろうかと考えた。の持つ宝物のようにぴかぴかと眩しいビー玉や、少し手触りの良いリボン、不思議な形をした石。持っているだけで特別な、少しだけ幸せになれるようなものを自分は何か持っているだろうか?そこまで考えて、ポケモンは頷く。宝物と呼べるようなものは何も無いのだ。するとそれを見たは、ふうん、と呟いて自分の手にある木の箱を見つめた。それから、その木の箱をポケモンへと差し出す。

僅かに俯いていたポケモンは、木の箱を差し出されたことに気が付くと不思議そうな表情を浮かべながら顔を上げた。

「これ、あなたにあげる!」

ポケモンは驚いた顔をして、ぽかんと口を開けた。その顔が可笑しかったのか、がくすくすと笑い声を上げる。慌てて口を閉じたポケモンは、宝物だって言っていたのに、どうしてくれるのだろうと不思議に思いながら首を傾げた。

「わたしのたからものだけど、あなたにならあげてもいいなっておもったの」

また頑張って集めればいいもの。そうが言うと、少しの間を置いてからポケモンは大きく跳んでの膝の上に乗り、の頬をぺろりと舐めた。が擽ったい!と笑いながら抗議の声を上げるが、ポケモンはもう二、三度程頬を舐める。それからに頬擦りをすると、きゃん、と嬉しそうに鳴いた。

ポケモンは、誰かから贈り物を貰うことなど当然初めてだったのだ。その為嬉しくて仕方が無かったのである。あまりの喜びようにも嬉しそうにポケモンを抱き締めた。

「よろこんでくれて、うれしいな」

ポケモンはの言葉に応えるように、また先程のように鳴いてからテーブルの上に飛び乗った。それから木の箱の蓋を鼻先で押し上げると、中を覗く。自分の眼とお揃いの色のぴかぴかのビー玉と、手触りの良い赤色のリボン、それから星の形をした石。全部が眩しく見えて、ポケモンはテーブルの上で小さくくるくると回った。持っているだけで少し幸せになれるようなものが、一度に三つも出来たのだ。なんて素敵なことだろう。

そこで、ポケモンはあることを思い付いた。シシシ、と白い牙を見せて笑うとが首を傾げる。

「なあに?どうしたの?」

何でも無いのだとポケモンは首を振る。は不思議そうな顔をしたが、ポケモンはにやにやと笑うだけだった。


***



それから五日後、森の中の花畑で遊んだ後にポケモンの棲み処に行った日のことだ。が椅子に座ると、ポケモンはいつものように椅子には座らず、さっと小屋の外へと行ってしまった。

「あれ?ねえ、どうしたの?」

が声を上げると、ポケモンはすぐに姿を現した。その口には、何かが啣えられている。ポケモンはもう一つの椅子に飛び乗るとテーブルの上に前足を乗せ、身を乗り出すと口に啣えていたものを置いた。

「これ……」

テーブルに掛けられた薄い空色と白のチェックの柄の布の上で、まだ少し泥の付いた美しい色の石が光っている。その美しさにが目を奪われていると、ポケモンはその石をの方へと前足で近付けた。

「わたしに、くれるの?」

ポケモンは笑顔で何度も頷いた。がその石を手に取ると、石は眩しくキラキラと光る。ポケモンはに宝物を貰ったあの日の夜から、と遊ぶ時間以外全てを費やして、こっそりと森の中にある洞窟や川でずっとへのプレゼントを探していたのだった。

「……すごく、うれしい!ありがとう!」

が椅子から立ち上がってポケモンを抱き上げると、ポケモンはきゅうんと鳴いて尻尾を左右に振る。それから、の為に頑張って良かったなあと思い、へっへと得意そうに声を上げて笑ったのだった。