は森に遊びに行く時はいつも何も持たずに出掛けていたが、その日は鞄を一つ肩から提げていたので、森の入り口にある自分の座る背の低い切り株へと駆け寄って来たの姿を見たポケモンは、おや?と思った。そしていつものように抱き上げられたポケモンは、きゅうんと楽しそうに鳴いてからの頬をぺろりと舐める。それからの肩の鞄の紐を前足でかりかりと引っ掻いた。

「えへへ。きょうはいいものをもってきたの!」

ポケモンを地面へとそっと下ろしながら、は満面の笑みでそう言った。ポケモンが不思議そうに首を傾げると、はふふんと笑って見せる。

「ひ、み、つ!」

お家に着いたら見せてあげるよ、と言われたので、ポケモンは鞄の中のものを一体何だろうかと想像しながら森の中を歩き出した。その隣を並んで歩くの鞄からは、かちゃかちゃと何やら騒がしい音が響いている。

「ついてからのおたのしみ!」

途中何度も気になったポケモンがの顔を見上げたが、その度がそう言うので、ポケモンは頭の上にクエスチョンマークを浮かべる他無かった。


***



ポケモンの棲み処である小屋へ着くと、ポケモンはいつものように椅子に飛び上がった。向かいの椅子にも座る。そして鞄をテーブルの上に置いた。

「じゃーん!」

そう言いながらが取り出したのは、一本のジュースと割れないようにしたのだろう、タオルに包まれた白い小さな皿が一枚と、白く口が少し広めのティーカップが二つだった。

「ここ、すっごくきれいなんだもん。おちゃとかのんだら、すてきかなあっておもったの!」

それを聞いたポケモンは、お茶会ってやつか、と頷いた。そして椅子から下りるとこの前と同じように小屋の隅にある木から枝ごと木の実を採り、再び椅子に飛び上がるとテーブルの上でぴかぴかと光る真っ白な皿の上にそれを置く。それにしても皿とティーカップは何やら高そうだが、持ってきて大丈夫だったのだろうか?と心配そうにを見詰めたが、は呑気にジュースの缶を開けるとそれをティーカップに注いだ。

「これね、ミックスオレっていうの。あなたはのんだことあるかな」

ポケモンは首を左右に振った。森でずっと暮らしているのだから、「みっくすおれ」とやらは眼にするのすら初めてだ。「みっくすおれ」が注がれたティーカップを目の前に差し出されたポケモンは、椅子に立ち上がるとテーブルに前足を乗せ、それからその前足で器用にティーカップの左右をしっかりと押さえた。そしてふんふんと匂いを嗅ぐと、恐る恐る「みっくすおれ」というジュースをぺろりと舐める。

「……どう?」

が尋ねると、ポケモンはぱっと顔を輝かせて頷いた。そして木の実などとはまた違う甘さが美味しいそれを、ティーカップに鼻先を突っ込むようにして舐める。それを見たは笑顔を浮かべると、自分もティーカップに手を伸ばし、ほっと息を吐いた。これらの食器は使っていなさそうなものを見繕って持ってきたのだが、ポケモンが飲み辛そうにしている様子もないので安心したのだ。

「うん、やっぱりおいしい」

ポケモンが用意してくれた木の実を食べながらがそういうと、ポケモンも同意するようにふさふさの尻尾を左右に振った。それから残りのミックスオレを、上手くティーカップを傾けて飲み干す。

「くちのまわり、ついてるよ」

口の回りにミックスオレが付いているのに気が付いたがそれを指摘すると、ポケモンは慌てて口の回りを舐める。それを見たが可笑しそうに笑うと、ポケモンも釣られて笑ったのだった。


その次の日も、いつものように森の入り口にある背の低い切り株の前へとやって来たは肩から鞄を提げていた。ポケモンはまたも鞄に眼を向けると首を傾げる。しかしはそんなポケモンの様子に、昨日と同じようにひみつ、と笑うと森の中を歩き出した。今度は何を持ってきたのやら、とポケモンは思ったが、棲み処に着けば見れるだろうとそれ以上尋ねはせず、の後を追う。

ポケモンの棲み処に辿り着き、ポケモンがまたいつものように椅子に飛び上がると、はテーブルをちらりと見遣った。テーブルの上には、昨日が持ってきたティーカップが二つと白い小さな皿が伏せられて置かれている。

「あのね、すこしだけ、めをつむってて!」

そう言ってがポケモンの眼を両手で隠すと、ポケモンはくうんと不思議そうに鼻を鳴らしたが、頷くと大人しくぎゅうと眼を瞑る。それを確認すると、はテーブルの上の食器を空いているもう一つの椅子の上に移動させ、鞄を開けて持ってきたものを取り出した。

それは、薄い空色と白のチェックの柄の布だった。その布を広げて何とか小さなテーブルに被せると、皺を丁寧に伸ばす。そしてその真ん中に更に鞄から取り出した小さな瓶を置き、小屋のすぐ傍に咲く可愛らしい花をいくつか摘むと瓶へと飾った。

「まだ、みたらだめだよ」

ポケモンは眼を瞑ったまま椅子に伏せ、それから頷いた。は椅子に置いていた食器を近くの川で綺麗に洗ってからテーブルに戻すと、皿の上に持ってきたポフレというお菓子を幾つか乗せ、ティーカップにはサイコソーダの缶を開けてを注ぐ。どれもそんなに重くはないものだが、子供であるにとっては中々の荷物だった。しかし頑張って持ってきた甲斐があったとはテーブルの上を見てこっそりと笑顔を浮かべる。それから笑顔のままポケモンへと目を向けると、声を掛けた。

「おまたせ!もうみてもいいよ!」

待ってましたと言うように、へっへとポケモンが笑って眼を開けると、ポケモンはきらきらと眼を輝かせた。ただの寂れていた筈のテーブルには可愛らしいテーブルクロスが掛けられており、その上には花が飾られ、更には見たことのないお菓子とジュースが並べられているのだ。興奮したように椅子の上で飛び跳ねながら、ポケモンはきゃんきゃんと鳴いた。大きな尻尾がいつも以上に左右に振られている。

「どう?すてきでしょ?」

ポケモンはぶんぶんと大きく首を縦に振ると、椅子に立ち上がってテーブルに前足を乗せた。

「さあ、どうぞ」

がポフレとサイコソーダって言うんだよと説明しながら食器をポケモンの方へと近付けると、ポケモンはポフレを一つ口にした。淡い桃色の、デコレーションが施されたお菓子がポケモンの口の中に消える。口に合うかしら、とが少しだけ心配そうに見詰めていると、ポケモンは顔を綻ばせた。

「……おいしい?」

ポケモンは白い牙を見せて頷く。それから皿の上の茶色のポフレとの顔に何度も眼をやるので、たくさん食べていいよ、とが言うと嬉しそうにまた、尻尾を振った。