彼女とかけがえのないもの

日陰になっている玄関の階段に座り、庭で遊ぶヌケニンやフワンテ、フワライドにゴース達を見ながらは欠伸を一つ漏らした。ゴースとゴースト、ゲンガーにジュペッタのいつもの四匹は、が作った花冠を頭に、これまたいつも通りの鬼ごっこをしている。はその様子を見ながら、もう一度欠伸を漏らした。すると隣にいたヤミラミとミカルゲが、の顔を見つめる。

「天気が良いから、眠くなっちゃって」

瞬きを何度か繰り返すと、は再び作業を始めた。とヤミラミ、ミカルゲの座っている階段の後ろには、ユキメノコとジュペッタがどこからか摘んできたたくさんの花が置いてあり、は外の涼やかな風に当たりつつ、その花で花冠を作っているのだ。

「はい、一つ出来上がり」

がヤミラミの頭に花冠を乗せると、ヤミラミは頭に乗った花冠を見上げて嬉しそうに笑う。次はミカルゲね、とは後ろのまだまだたくさんある花に手を伸ばした。庭ではフワンテとフワライドがふわふわと気持ちよさそうに散歩し、ヌケニンは遊びに来たバタフリーと戯れている。その様子を眺めながら、は花を一つ一つ丁寧に編んでいた。

ミカルゲの御影石に出来たばかりの花冠を回し、後ろでしっかりと結んでいると、急に庭が騒がしくなった。そこでとヤミラミ達が何事かと顔を上げると、玄関の門の外に何やら黒い影が現れ、もやもやと揺れている。

「お客さんだね」

がヤミラミ達と目を合わせて頷くと、揺らめく影は、やがて一匹のポケモンへと姿を変える。それはの予想通り、ギラティナだった。

ギラティナは例のあの日から、時々湖を通してこちらの世界にやってくると、影のように姿を変えて屋敷に遊びに来るようになったのだ。普通の家だったならギラティナの大きな身体は入れないが、この大きな屋敷なら話は別なのである。ギラティナはもう一度影のように姿を変えると、屋敷を囲う柵を摺り抜け、庭でまた元の姿へと戻った。

「いらっしゃい」

が言うと、ギラティナはこくりと頷いた。屋敷の仲間達は最初こそギラティナに驚いていたが、もう今ではすっかり慣れている。そして窓からギラティナが見えたのか、屋敷の壁を摺り抜けてヨマワルにサマヨール、さらにムウマージとユキメノコが姿を現した。皆、遊びに来たギラティナを歓迎しているようだ。ギラティナも心なしか嬉しそうに見える。

そんな屋敷の仲間達と、その仲間達に囲まれているギラティナをが微笑ましく思いながら見つめていると、後ろの玄関の扉が開いた。扉を開けたのはヨノワールで、扉の隙間からチルタリスが顔を覗かせている。そこでが呼ぶとチルタリスはの元へとやって来て、そしての隣に座り込んだ。そのチルタリスの背中ではカゲボウズ達にロトム、ムウマがチルタリスの羽に埋もれるように仲良く眠っている。

「仲良いなあ」

が笑うと、チルタリスは本当にね、というような顔をする。そしていつの間にかの後ろにいたヨノワールも、腕組みをして頷いた。

「私、ちゃんと約束を守れているかな?」

花冠を編んでいた手を止めたは、チルタリスの頭をそっと撫でてからそんなことを呟いた。約束というのは、が初めてヨノワールと出会った時に交わした約束である。ヨノワールは庭の様子を眺めていたが、その言葉にへと眼を向けると、頷きながらその眼を細めた。

「ありがとう」

二人の約束を知らないヤミラミやミカルゲ、チルタリスは首を傾げたが、は秘密、と笑うとチルタリスの頭を再び撫でた。それに対しヤミラミとミカルゲは不思議そうに顔を見合わせ、チルタリスは気になる、との服の裾を催促するように嘴で軽く引っ張ったが、やがて諦めたのか眼をそっと閉じる。

はチルタリスの頭を撫でながら屋敷を見つめ、庭を眺め、最後に仲間達を順番に見つめた。そしては柔らかな笑みを浮かべると、そっと目を細め、いつまでもこの幸せに浸っていたいと願う。

―――目の前にある全ての、にとって大切で愛おしい、かけがえのない宝ものが傍にあるこの幸せに。


20110605/第一部 おわり



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