ロトムとピクニック

今日は朝からいつにも増して、屋敷のポケモン達は賑やかだった。その理由は、今日は昼になったらピクニックに行くことになっているからである。ピクニックに行く場所は、以前フワンテが教えてくれた花畑の予定だ。

「こら、つまみ食いをしないの」

キッチンでがヨノワールにユキメノコ、ヤミラミとサンドイッチを作っていると、急に壁から現れたゴーストとゲンガーが、パンの間に挟む為に切ったモモンの実のひょいと摘んだのだ。それから二匹は大きく口を開け、それを放る。そしてモモンの実の甘さに顔を綻ばせた二匹は、ケラケラと笑うと再び壁に姿を消した。それを見て達は顔を見合わせると、やれやれと溜め息を吐く。

「急いで作っちゃおう」

の言葉に三匹は頷くと、また黙々とサンドイッチを作る作業を再開した。それから暫くして達がサンドイッチを作り終え、大きめのバスケットにそれを詰め終えた所で、ムウマとムウマージ、カゲボウズがキッチンに顔を出した。どうやら達の準備が出来たのか見に来たようだ。

「お待たせ!みんなを集められる?もう行けるよ」

ムウマ達は嬉しそうに鳴くと頷き、それから玄関ホールへと姿を消した。はサンドイッチを作るのを手伝ってくれた三匹に行こうか、と声を掛けると、なかなかの重さになったバスケットを両手で抱えるようにして持ち上げる。すると、ヨノワールがの手から片手でひょいとバスケットを取った。どうやらヨノワールが持ってくれるようだ。そこでは食堂のテーブルの上に置いておいた、比較的軽いバスケットを手に取るとヨノワールへと振り返った。

「ありがとう」

ヨノワールは頷くと、の背をバスケットを持っていない手でそっと押した。

玄関ホールには、もう既に屋敷の仲間達が集まっていた。ピクニックが余程楽しみならしく、わいわいとお祭り騒ぎをしている。そんな彼等に行こう、とが声を掛ければ、わっと歓声が上がった。

屋敷を出ると、フワンテとフワライドが先頭を進んだ。そしてフワライドの手には、先程までの手にあったバスケットがある。屋敷を出る時にフワライドが持ってくれたのだ。そこで両手の空いたは、ヤミラミとユキメノコと手を繋いで歩いていた。ゴースにゴースト、ジュペッタとゲンガーは屋敷の中のように元気よく燥ぎながら走っている。の後ろについて来るチルタリスの背には三匹のカゲボウズとヌケニンが乗っており、チルタリスの隣を漂うヨマワルと何かを話しているようだ。そしてチルタリスの後ろでは、サマヨールとヨノワール、ミカルゲがゆっくりとついて来ている。屋敷を出る時ミカルゲは念力で要石を運ぶしかないと思ったのだが、ミカルゲは要石ごと移動できるらしく、ヨノワール達の隣をぴょこぴょこと移動しているのだ。

そんな調子で皆でのんびりと歩いていると、漸く目的の場所へと辿り着いた。暖かい陽射しの当たるそこは、以前来た時程では無いがそれでも小さな花はたくさん咲いており、その上をバタフリー達が飛び回っている。そしてが持ってきた大きなレジャーシートを敷くと、フワライドやヨノワールがバスケットをそっと置いた。

「みんな、お昼にしようか!」

バスケットを開けると真っ先に飛び付いたのはやはりゲンガーだ。ゲンガーはサンドイッチを手に取ると眼を細める。サンドイッチが入っていない方のもう一つのバスケットにはたくさんのスコーンとジャムの瓶がいくつか入っており、それを見た甘いものが好きなユキメノコやミカルゲは嬉しそうに鳴いた。

そうして昼食は賑やかに始まったのだが、暫くするとチルタリスが頻りに辺りを見回しだした。ムウマージやミカルゲも辺りを探る様に見つめている。

「どうしたの?」

その様子を不思議に思ったが問い掛けると、ミカルゲが近くの叢に向かって怪しい光を放つ。すると次の瞬間何か小さな声が叢から聞こえたので、とチルタリスは顔を見合わせた。屋敷の仲間達は、サンドイッチやスコーンを手に何事かとその叢を食い入るように見つめている。は立ち上がると、恐る恐るその叢へと近付いた。

「……テレビ?」

が叢を掻き分けると、そこには小さく古びたテレビやラジオなど、家電製品が隠すように棄てられていた。チルタリスもの後ろからそれを首を傾げつつ覗き込む。すると急にテレビが音を立てて揺れ、それを見たチルタリスはの服の裾を嘴で掴んだ。チルタリスがを後ろに引いたのと、テレビから一匹のポケモンが姿を現したのは同時のことだった。

「……ロトム!?」

廃棄されていたテレビから姿を現したのは、一匹のロトムだった。先程のミカルゲの怪しい光によって、ふらふらと眼を回している。そうしてロトムは達の前で眼を回していたが、ふるふると頭を振ると達をじっと見つめた。サンドイッチやスコーンを食べていた仲間達も、突然姿を現したロトムを興味津々といった様子で見つめている。そのままロトムと達は暫くの間見つめ合っていたが、ふいにきゅるると間の抜けた音が響いた。それに思わずは笑う。

「もしかしてお腹が空いてるの?」

するとロトムは気不味そうに下を向き、ゆっくりと頷いた。

「私達、丁度お昼にした所なの。良かったらロトムもどう?」

そうが言うと、ロトムはぱっと顔を上げた。チルタリスや屋敷の仲間達も、それが良いと言うように頷く。ロトムはその様子を見て、にこりと嬉しそうに笑った。



そうしてロトムが加わったお昼は、いつにも増して賑やかだった。屋敷の仲間達も、もうロトムと打ち解けている。はある程度サンドイッチを食べ終えると、チルタリスに寄り掛かった。の隣では、ヤミラミとヌケニンも同じようにチルタリスに寄り掛かっている。

一方ジャムをたっぷりと乗せたスコーンを食べていたロトムは、お腹が空いていたとはいえいきなり混ざって本当に良かったのだろうかと隣にいたムウマージに尋ねた。するとムウマージは、別に良いのよ、とにこりと眼を細める。が良いって言ったのだから大丈夫だよ、そうロトムに言ったのは三匹のカゲボウズだ。そして両手にサンドイッチを持ったゲンガーも、何なら屋敷に棲んじまえよ、などとロトムに言った。ロトムはそれに対し、迷うようにううんと唸る。それから、出来るならそうさせてくれると嬉しいのだけれど、と呟いた。

私も勝手に屋敷に入り込んだようなものだし平気だと思うわ。そうユキメノコが会話に加わると、達に寄り掛かられたまま、チルタリスが僕も平気だと思うよ、と欠伸をしながら言った。それを聞いたロトムは意を決したように、ここにいる皆は僕も屋敷に棲んでも良いかな、と尋ねる。すると、チルタリスに屋敷の仲間達は皆笑顔で頷いたのだった。



ピクニックの帰り道、行きと同じようにフワライドの持つバスケットの中にロトムは隠れていた。は勿論それを知らないので、屋敷の仲間達がにやにやと笑っていることに首を傾げるだけである。そうしては不思議に思いつつも屋敷に着くと、フワライドとヨノワールから空になったバスケットを受け取り、食堂へとそれを片付けに向かった。屋敷の仲間達は、顔を見合わせると食堂の入り口から食堂の様子を伺う。そしてがバスケットを食堂のテーブルに置いた時だった。

「わっ、ロトム!……ついて来ちゃったの!?」

バスケットから飛び出したロトムはぴゅーい、と高い声で鳴くと、の回りをくるりと回った。その様子に、ここに棲むつもり?とが尋ねると、ロトムはにこりと笑って頷く。

「……仕方ないなあ」

諦めたように笑いながらが言うと、食堂の入り口でこっそりと様子を伺っていた屋敷の仲間達はわっと燥いだ。それを見たは、だから帰り道あんなに浮かれていたんだね、と、思わず笑みを零した。


前のお話 | 次のお話
戻る