明けゆく空は美しい。真っ白に輝く無数の星達が散らばる、深い海の底のような紺色の空は少しずつ朱色の空と混じり合い、やがて完全に朱色に染まると眩しいばかりの太陽が東の空から朝陽を連れて姿を現すのだ。踝辺りまでの背丈の草が生え揃う草原で、足を止めてその美しい光景を見つめていたは思わず目を細めた。草原の遥か上空、朝陽に染まる雲の間をムクホークが気持ち良さそうに飛んでいる。
「おはよう、」
不意にテレパシーで伝えられた低い声にはゆっくりと振り返る。振り返った先にいたのは闇のように真っ黒な身体をしたポケモン───ダークライだ。ダークライの挨拶に同じようにおはよう、と返したはダークライの隣に並ぶともう一度今も尚昇りつつある太陽へと目を向けた。
「いつ見ても綺麗な朝陽だね」
「ああ、本当にな」
ダークライのターコイズブルーとも言うべき青い瞳がすっと細められる。いつの間にやら太陽からダークライへと視線を移していたは、朝陽の金色の光が入り込んでいつにも増してとても美しい色に染まったダークライの瞳をじっと見つめた。の遠慮ない視線に気が付いたダークライは何処か気恥ずかしそうにして眼を逸らしつつ、何だ、と呟く。
「ダークライの眼も、いつ見ても綺麗だね」
「……冗談はよしてくれ」
「照れなくてもいいのに」
が笑うとダークライはの頭を軽くはたいた。対して痛くも無くただ髪がほんの少し乱れただけだったので、は手櫛でさっと乱れた髪を直すとダークライの腰をお返しと言わんばかりにつついた。ダークライが釣られたように笑う。
は様々な 場所やポケモンをこの目で見たい、と、世界の様々な場所を旅していた。カントー地方にジョウト地方、ホウエン地方にここ、シンオウ地方。そして軈てはイッシュ地方にも行く予定だ。今ダークライといるこの場所は、少し前に訪れて以来お気に入りの場所であった。豊かな緑に爽やかな潮風が駆ける草原に、海も見える。滞在して暫く経つが、いつここを発つかはまだ未定だ。
「……誰かとこうして並んで同じ空を見ることが出きるというのは、良いものだな」
「急にどうしたの?」
「……いや、ただ思っただけだ」
完全に昇りきった太陽はさんさんと輝いていた。草原から見下ろせる海はそんな太陽の下で凪ぎ、きらきらと太陽の光を柔らかく受け止めては光を空に返す。その光景を暫くの間は静かに見つめていたが、ふと隣にいるダークライの顔を盗み見た。美しい光景を見つめるダークライの眼は、と同じように感動しているのか僅かに潤んで見えた。