と暮らすようになってから半月が経つ頃には、私も随分機械的では無くなったものだと思いました。あの、感情や仕種を一人で覚えてゆくプログラムが相変わらずフル稼動を続けるお陰で、喜怒哀楽は勿論、ちょっとした仕種をするようになっていたのです。
そしてプログラムは未だに故障を起こしてはおりませんでした。私が思っていた以上に、私達ポリゴンZは頑丈に、しっかりと作られていたようです。異常な行動をとるようになることが無ければ、私達ポリゴンZという種族は間違いなく様々な場で活躍していたでしょう。
さて、その日はと街に買い物にやって来ておりました。旬の魚に野菜なんかを買い、それらが入った買い物袋を片手に私と並ぶはどことなく楽しそうで、私も自然と機嫌が良くなります。しかし、私とがある裏道に差し掛かった時でした。
突如低い唸り声が聞こえたかと思うと、の買い物袋が後ろから引っ張られたのです。慌てて私とが振り向くと、そこには買い物袋に牙を立てるグラエナがおりました。買い物袋の持ち手にはが腕を通していたため、グラエナが袋に牙を立てそのまま引くと、の腕は勢いよく引かれました。そしてあろうことか、グラエナはそのの腕に牙を立てたのです。
その際に丁度の腕から袋が落ち、それに気を取られたグラエナはの腕から口を離しました。そして腕を押さえては蹲り、その様子を見た私は、何ともいえないような気持ちが沸き起こったのです。腸が煮え繰り返ると申しますか、私の全ての電子回路がオーバーヒートを起こしそうな程に、腹が立ったのです。
グラエナは買い物袋を漁った後、続いて私に眼を向けました。そしてそのまま私に勢いよく近付くと、私の身体に牙を立てたのです。まさに、その瞬間でした。眩い電撃が、辺りを照らしたのです。私の10万ボルトを受けたグラエナは、凄まじい電撃に眼を回し、そのままふらふらと姿を消しました。
グラエナが姿を消したのを確認すると、私はすぐにに近寄りました。は相変わらず腕を押さえておりました。私はそんなを見て悲しい気持ちが沸き上がると共に、一体どうしたら良いのか解らなくなりました。自分が何か傷を負った時、私達は自己再生という修復プログラムによって傷を即座に治すことが出来ますが、人間はどうしたら良いのでしょうか。
ただ狼狽える私に、は大丈夫だから、と笑うとゆっくりと立ち上がりました。
「……とりあえず、病院に行こう」
買い物袋は悲惨でしたが中身はほとんどが無事だったので、私とはそれらを何とか持つと一度家に帰り、それから病院へと向かいました。
の傷は、比較的軽いものでした。包帯を巻いたの腕は痛々しいものでしたが、生活をするのに支障はなさそうで、私はほっとしました。そしてその日のうちに家に帰宅したは、ソファに座ると私を呼びました。
「今日は、助けてくれてありがとう」
はあのグラエナに10万ボルトを浴びせた時のことを言っているのでしょう。私はいいえ、と首を振りました。しかしは私の身体をそっと抱き寄せると、そのまま私の背中を撫でました。擽ったいような、何ともいえない気分です。
「ポリゴンZがいてくれて良かった」
ははにかむと、今度は私の頭を撫でました。その時私は、あの以前の友人に撫でられるワカシャモを見て、何となく羨ましい気持ちになった訳が解ったような気がしたのです。
続いて、私は何だか喜怒哀楽とはまた別の新しい感情を感じました。私のあの例のプログラムがまた働いているのです。のことを考えると締め付けられるような悲しい気持ちになったり、笑顔を見れば温かな気持ちになったりする、このころころと姿を変える今感じた新しい感情は、些かややこしいものでありました。しかし、不思議と悪い気はしなかったのです。
それから私はその新しい感情を確かめるように、私を抱き締めるの身体に、私の短い両腕を伸ばしてみました。すると、擽ったい、とは笑みを零しました。そしてその笑顔を見た私は、何とも言えないような幸せを感じたのです。
そしてこの時、私ははっきりと確信しました。成る程、これが愛というものなのですね。
(不可解なアイというものについて)
20101003
そしてプログラムは未だに故障を起こしてはおりませんでした。私が思っていた以上に、私達ポリゴンZは頑丈に、しっかりと作られていたようです。異常な行動をとるようになることが無ければ、私達ポリゴンZという種族は間違いなく様々な場で活躍していたでしょう。
さて、その日はと街に買い物にやって来ておりました。旬の魚に野菜なんかを買い、それらが入った買い物袋を片手に私と並ぶはどことなく楽しそうで、私も自然と機嫌が良くなります。しかし、私とがある裏道に差し掛かった時でした。
突如低い唸り声が聞こえたかと思うと、の買い物袋が後ろから引っ張られたのです。慌てて私とが振り向くと、そこには買い物袋に牙を立てるグラエナがおりました。買い物袋の持ち手にはが腕を通していたため、グラエナが袋に牙を立てそのまま引くと、の腕は勢いよく引かれました。そしてあろうことか、グラエナはそのの腕に牙を立てたのです。
その際に丁度の腕から袋が落ち、それに気を取られたグラエナはの腕から口を離しました。そして腕を押さえては蹲り、その様子を見た私は、何ともいえないような気持ちが沸き起こったのです。腸が煮え繰り返ると申しますか、私の全ての電子回路がオーバーヒートを起こしそうな程に、腹が立ったのです。
グラエナは買い物袋を漁った後、続いて私に眼を向けました。そしてそのまま私に勢いよく近付くと、私の身体に牙を立てたのです。まさに、その瞬間でした。眩い電撃が、辺りを照らしたのです。私の10万ボルトを受けたグラエナは、凄まじい電撃に眼を回し、そのままふらふらと姿を消しました。
グラエナが姿を消したのを確認すると、私はすぐにに近寄りました。は相変わらず腕を押さえておりました。私はそんなを見て悲しい気持ちが沸き上がると共に、一体どうしたら良いのか解らなくなりました。自分が何か傷を負った時、私達は自己再生という修復プログラムによって傷を即座に治すことが出来ますが、人間はどうしたら良いのでしょうか。
ただ狼狽える私に、は大丈夫だから、と笑うとゆっくりと立ち上がりました。
「……とりあえず、病院に行こう」
買い物袋は悲惨でしたが中身はほとんどが無事だったので、私とはそれらを何とか持つと一度家に帰り、それから病院へと向かいました。
の傷は、比較的軽いものでした。包帯を巻いたの腕は痛々しいものでしたが、生活をするのに支障はなさそうで、私はほっとしました。そしてその日のうちに家に帰宅したは、ソファに座ると私を呼びました。
「今日は、助けてくれてありがとう」
はあのグラエナに10万ボルトを浴びせた時のことを言っているのでしょう。私はいいえ、と首を振りました。しかしは私の身体をそっと抱き寄せると、そのまま私の背中を撫でました。擽ったいような、何ともいえない気分です。
「ポリゴンZがいてくれて良かった」
ははにかむと、今度は私の頭を撫でました。その時私は、あの以前の友人に撫でられるワカシャモを見て、何となく羨ましい気持ちになった訳が解ったような気がしたのです。
続いて、私は何だか喜怒哀楽とはまた別の新しい感情を感じました。私のあの例のプログラムがまた働いているのです。のことを考えると締め付けられるような悲しい気持ちになったり、笑顔を見れば温かな気持ちになったりする、このころころと姿を変える今感じた新しい感情は、些かややこしいものでありました。しかし、不思議と悪い気はしなかったのです。
それから私はその新しい感情を確かめるように、私を抱き締めるの身体に、私の短い両腕を伸ばしてみました。すると、擽ったい、とは笑みを零しました。そしてその笑顔を見た私は、何とも言えないような幸せを感じたのです。
そしてこの時、私ははっきりと確信しました。成る程、これが愛というものなのですね。
(不可解なアイというものについて)
20101003