Hanada
 少し高めの温度設定の、暖房がよく効いた部屋。テーブルの上に冷蔵庫から取り出したあるものを置くと、部屋のすみからゲンガーがすがたを現した。どこかへ遊びに行っていたはずなのに、まったくタイミングのいい子だ。
 キョロキョロと部屋を見回したゲンガーは、テーブルの上に置かれたもの──ちょっとお高いカップのアイスクリームに気がつくと、「ゲ!」と声を上げた。大きな赤い目がまんまるになって、キラキラと輝いている。

 何かを期待するような眼差しを向けられて、「一緒に食べる?」と尋ねれば、ゲンガーは耳をピコピコと動かしながら頷いて、その場でくるりと回った。分かりやすいほどにゴキゲンな様子についつい笑ってしまいながら、カップの蓋を開ける。

 蓋を開けたところで、あることを思い出した。ついこの間、デパートに立ち寄った際にいいものを購入したのだ。
 ゲンガーに「ちょっと待っててね」と声をかけキッチンに向かった私は、お目当てのものを手に取るとすぐに戻った。アイスを食い入るように見つめているゲンガーは、今にも「したでなめる」をしそうな顔をしている。

「おまたせ、はい、どうぞ」

 いいもの。ゲンガーのすがたが描かれた紫色のアイスクリームスプーン。お店で見かけ、迷わず買ってしまったものだ。それでアイスを掬って差し出すと、ゲンガーはパチパチと瞬きをした。紫色の見慣れない物体を、訝しそうに見つめている。

「いいでしょ、これ。アイスクリーム用のスプーンなんだけど、つい買っちゃった」

 スプーンを持つ指を少しだけずらして、描かれたゲンガーのすがたを見せつける。アイスクリームスプーンをじっと見つめたゲンガーは、にい、と白い歯を見せて笑うと、大きく口を開けてアイスに食い付いた。
 ゲンガーの大きな口では、スプーンで掬ったアイスなど一瞬で消えてしまう。この一つのカップだって、はいと差し出したら一瞬で食べてしまいそうだ。そんなことを考えながらもう一度ゲンガーの口にアイスを運び、それから私もアイスを口にした。

「つめたーい!」

 キンと冷えたアイスに声を上げる私の横で、ゲンガーはそうか? なんて首を傾げている。元よりからだが冷たいゲンガーにとっては、この程度どうってことないのだろう。「寒い」だとか「おいしいねえ」なんて言いながらアイスを分けて、とは言ってもアイスの大半をゲンガーにあげてしまったけれど、私は満足だった。一方で、ゲンガーはまだ足りないと舌を出している。

「また、アイス買ってくるね。せっかく買ったんだもん。いっぱい使わなきゃ」

 長い舌を引っ込めたゲンガーが、大きく頷いた。今にも踊り出しそうなゲンガーを見ながら、さて次はどんな味のアイスにしようかななんて考えるのだった。


ゲンガーとアイスクリーム/20210202
※ポケモンのアイスクリームスプーンが発売された際、その中のゲンガーデザインのスプーンを見て書いたSSです。