よく晴れた昼時、リビングにある大きな窓の前のフローリングにはよく陽が当たる。故にそこは私のお気に入りの場所だ。柔らかなカーペットの上、のすぐ傍にいた私は、ちらりと彼女の横顔を一見した後にするりと音も無くその場へと移動した。
それから惜しみ無く降り注ぐ太陽の光と温もりを蓄えようと、私は瞼を落としてぐるりと蜷局を巻く。本当ならこんな穏やかな昼にはにでも構ってもらい所なのだが、生憎彼女は先程からこの前買ったという本に夢中になっており、それどころでは無さそうだ。私がこうして移動しようとも、全く動じないのだから。読書好きなに読書をするなとは言わないが、少し寂しいものである。
「ジャローダ?」
ところが私が瞼を落としてすぐ、意外なことにが声を掛けてきた。本に夢中になっていたのだから、まさか声を掛けられると思いもしなかった私は思わず眼を開く。そうして眼にしたは本を傍らに置き、同じように私を見つめていた。
「こっちにおいでよ」
は私に手招きをし、自分のすぐ隣を指し示す。私は頭をもたげると、私を放って読書をしていたくせに、と僅かばかりの非難を含んだ視線を彼女に向けた。
決して怒っているのでは無い。子供っぽいと思われるかもしれないが、私は今、少しばかり拗ねていたのである。
「私が悪かったから、拗ねないで」
には私が怒っているのでは無く拗ねているだけだということがお見通しなようで、困ったように眉を下げてそう口にする。それを見て、私は静かに蜷局を崩すとの元へと向かった。
私が目の前に来るとが笑顔で両手を広げたので、私は躊躇すること無く彼女の腕の中に体を滑らせる。今の姿になる前のツタージャやジャノビーの頃ならば、小さいながらに両手があったのでを抱きしめ返すことが出来たのだが、ジャローダになった今ではそれが出来ない。それでもこうしてが抱きしめてくれるのだから、それも然したる問題には思わなかった。
「太陽に少し当たってただけなのにね。ジャローダの身体、ぽかぽかする」
そう目を細めてはぎゅうと私を抱きしめるが、私からしてみたら彼女の体の方が温かかった。そしてゆっくりとの頬に私の頬を寄せると、彼女は擽ったそうに身を捩る。
「わっ」
抱きしめられて気を良くした私が、ちろりとの首筋と頬を舐めると彼女は小さく悲鳴を上げた。私の身体は太陽の熱で温まっていたが、舌は冷たいので驚いたのだろう。
「もう!」
悪戯っ子め、とは言いながら私の身体を抱きしめていた手を離す。どうするのかと思えば、はくすくすと笑って眼を細めていた私の顔にその手を伸ばし、頬を両手でぎゅうと包んだ。
「ふふ、面白い顔」
両の頬を押され、それにより私の口は半分程開いている。きっと私の顔は今、の言う通り面白い顔になっているのだろう。
は暫くの間私の顔を見つめて笑い声を零していたが、暫くすると満足した様子で片手を頬から離し、私の頭を撫でた。眩しい陽の光の心地好さに似た優しさを孕んだこのてのひらは、だけが持っているものだ。
「機嫌は直ったの?」
穏やかに笑ったに尋ねられる。機嫌なんてとうに直っていた。私は満足気に頷くと、するりと長い尾で彼女の周りを囲む。がまた本に夢中にならないようにと、本から彼女を遠ざけようと思ってのことだった。
「そんなことをしなくても、もう本は読まないよ。ジャローダが拗ねるからね」
笑みを浮かべて肩を竦めたに、私は眼を細める。折角彼女に構ってもらえて、更にはこうして捕まえることもできたのだから、簡単には逃がすつもりは無い。
さて、これから一体どうしようか。そう考えて、私は思わず口元に笑みを浮かべたのである。
花咲く昼/20100121
加筆修正/20160609
それから惜しみ無く降り注ぐ太陽の光と温もりを蓄えようと、私は瞼を落としてぐるりと蜷局を巻く。本当ならこんな穏やかな昼にはにでも構ってもらい所なのだが、生憎彼女は先程からこの前買ったという本に夢中になっており、それどころでは無さそうだ。私がこうして移動しようとも、全く動じないのだから。読書好きなに読書をするなとは言わないが、少し寂しいものである。
「ジャローダ?」
ところが私が瞼を落としてすぐ、意外なことにが声を掛けてきた。本に夢中になっていたのだから、まさか声を掛けられると思いもしなかった私は思わず眼を開く。そうして眼にしたは本を傍らに置き、同じように私を見つめていた。
「こっちにおいでよ」
は私に手招きをし、自分のすぐ隣を指し示す。私は頭をもたげると、私を放って読書をしていたくせに、と僅かばかりの非難を含んだ視線を彼女に向けた。
決して怒っているのでは無い。子供っぽいと思われるかもしれないが、私は今、少しばかり拗ねていたのである。
「私が悪かったから、拗ねないで」
には私が怒っているのでは無く拗ねているだけだということがお見通しなようで、困ったように眉を下げてそう口にする。それを見て、私は静かに蜷局を崩すとの元へと向かった。
私が目の前に来るとが笑顔で両手を広げたので、私は躊躇すること無く彼女の腕の中に体を滑らせる。今の姿になる前のツタージャやジャノビーの頃ならば、小さいながらに両手があったのでを抱きしめ返すことが出来たのだが、ジャローダになった今ではそれが出来ない。それでもこうしてが抱きしめてくれるのだから、それも然したる問題には思わなかった。
「太陽に少し当たってただけなのにね。ジャローダの身体、ぽかぽかする」
そう目を細めてはぎゅうと私を抱きしめるが、私からしてみたら彼女の体の方が温かかった。そしてゆっくりとの頬に私の頬を寄せると、彼女は擽ったそうに身を捩る。
「わっ」
抱きしめられて気を良くした私が、ちろりとの首筋と頬を舐めると彼女は小さく悲鳴を上げた。私の身体は太陽の熱で温まっていたが、舌は冷たいので驚いたのだろう。
「もう!」
悪戯っ子め、とは言いながら私の身体を抱きしめていた手を離す。どうするのかと思えば、はくすくすと笑って眼を細めていた私の顔にその手を伸ばし、頬を両手でぎゅうと包んだ。
「ふふ、面白い顔」
両の頬を押され、それにより私の口は半分程開いている。きっと私の顔は今、の言う通り面白い顔になっているのだろう。
は暫くの間私の顔を見つめて笑い声を零していたが、暫くすると満足した様子で片手を頬から離し、私の頭を撫でた。眩しい陽の光の心地好さに似た優しさを孕んだこのてのひらは、だけが持っているものだ。
「機嫌は直ったの?」
穏やかに笑ったに尋ねられる。機嫌なんてとうに直っていた。私は満足気に頷くと、するりと長い尾で彼女の周りを囲む。がまた本に夢中にならないようにと、本から彼女を遠ざけようと思ってのことだった。
「そんなことをしなくても、もう本は読まないよ。ジャローダが拗ねるからね」
笑みを浮かべて肩を竦めたに、私は眼を細める。折角彼女に構ってもらえて、更にはこうして捕まえることもできたのだから、簡単には逃がすつもりは無い。
さて、これから一体どうしようか。そう考えて、私は思わず口元に笑みを浮かべたのである。
花咲く昼/20100121
加筆修正/20160609