Hanada
 小高い丘の上、艶やかな緑に囲まれた小さな家の庭から笑い声が響いた。



 洗い立ての真っ白なシーツを、庭の二本の木にぴんと張られたロープに干すの横で、ミミロルはぴょこぴょこと機嫌良く跳びはねる。シーツが風に飛ばされないように洗濯挟みでシーツを止めたは、そんなミミロルの様子に笑顔を浮かべると小さなその身体を優しく抱き上げた。

「天気が良くて気持ちいいね」

 ここのところ天気が悪い日ばかりが続いていたので、今日のような雲一つ無い晴天は久しぶりだった。嬉しさが滲むの言葉を聞いたミミロルは、ぴくりと耳を動かした後に眼を細めて頷く。ミミロルの反応には笑みを浮かべると、抱き上げたミミロルの身体を優しく撫でた。太陽を存分に受けたミミロルの身体はぽかぽかと温かく、また、毛並みがとても柔らかいのでまるでぬいぐるみのようだ。思わずがミミロルの首に顔を埋めると、どうやらそれがミミロルには擽ったかったようできゅうきゅうと笑い声を上げながら身体を捩った。そしてするりとの腕から抜け出すと、身軽に地面に飛び降りる。

「擽ったかった?ごめんね」

 ミミロルが態とらしく頬を膨らませるので、がつい笑いながら謝ると、ミミロルは大丈夫だと言うように首を振る。それから鼻をひくりと動かすと、不意に辺りを見回した。そして少し離れた所にバタフリーがいるのを見つけると、へと振り返って眼を輝かせる。ミミロルの言いたいことが分かったは、しゃがみ込むとミミロルの頭を撫でた。

「いいよ。遊んでおいで」

 それを聞いたミミロルは、嬉しそうに鳴き声を上げるとバタフリーを追い掛けるべく元気に走ってゆく。そしてはミミロルを見送ると、残りの洗濯物を干すのに取り掛かった。



***




 が残りの洗濯物全てを干し終える頃、遊ぶことに満足したミミロルが上機嫌で帰ってきた。しかし、帰ってきたミミロルの姿を目にしたは思わず絶句する。何故なら、ミミロルは全身泥塗れだったのだ。

「ミミロル!ちょっと、どうしたの!?」

 が驚いた表情でミミロルに駆け寄ると、ミミロルはの心配を余所に楽しそうに跳びはねた。それを見たは、思わず溜め息を吐く。

「泥遊びをしてたって訳ね……」

 ここ数日は雨ばかりが降っており、今日は久しぶりの晴れ間だったので、そこら中に水溜まりがある。恐らくミミロルはバタフリーを追い掛けた後、水溜まりで遊んできたのだ。ミミロルはの言葉に頷くと、ふるると身体を身震いさせた。身体についた泥を落とそうとしたのだ。

「そんなんじゃ泥は落ちないよ。ほら、こっちおいで」

 はミミロルに声を掛けると、家の外にある水道へと向かった。泥を落とそうとしたミミロルもそれを止めると、の後を跳ねながらついてゆく。そしては水道の蛇口捻ると、ミミロルの身体に水を掛けた。ミミロルは擽ったそうに笑う。

「こら、暴れないの」

 にも水を掛けようとするミミロルに、釣られたように笑いながら彼女はミミロルの身体についた泥を落とす。そして丁度良いか、と思ったはミミロルに待っててね、と声を掛けて家に戻り、ポケモン用のシャンプーとタオルを持って戻ってきた。それからシャンプーを手の平に出すと、丁寧な手つきでミミロルを洗ってゆく。



「はい、終わり」

 よく泡立ったシャンプーを綺麗に水で洗い流して水道を止めると、ミミロルは身体を再度身震いさせた。ミミロルの飛ばした水滴がに掛かると、ミミロルは口元に手を当てて笑う。

「もう!」

 そんなミミロルを優しくタオルで包み込み、水を拭き取ってゆくとミミロルは心地好さそうに喉を鳴らした。思わずの口元が弧を描く。そして充分に拭き終わると、まだ少し体毛がしっとりとしたミミロルの身体を抱き上げた。

「今日はもう泥遊びは禁止だからね」

 シャンプーの甘い香りの漂うミミロルの身体に顔を寄せながら、がそう言うとミミロルは耳をぴくりと動かした。そしてがしたように、彼女の頬に自分の頬を寄せると、分かってるよ、とでも言うかのようにの頬をぺろりと舐めたのだった。


(陽だまりの庭)