眩しい程の太陽の光は深い青に染まる海の上で拡散し、その光を受けながらママンボウ達は海の上へ顔を覗かせては跳びはねる。キャモメ達は海原を撫でる風を捕まえて優雅に海の上へと浮かび、更に遥か上空ではチルットとチルタリスの群れが柔らかな歌声を響かせながら飛んでいた。
美しい光景だった。それらの美しさ全てを表現する言葉が見当たらず、何一つ見落とさないように目を開いていることしか出来ない程の絶景。静かに、ただその美しい光景に目を奪われていたは何かを口にしようとしたが、やはりそれは言葉にならず全て溜め息となって潮風が浚っていった。そんなを背に乗せて、一匹のドラゴンがその青い海を駆ける。大きな身体はまるで風のように軽く、重力なんてものは存在しないように見えた。その海を駆けるドラゴンはを乗せて海面を跳ねるテッポウオ達の群れを追い越して、海の上の岩で日光浴をするサニーゴの群れの間を飛び、時折顔を出すタッツーには手を振って、そしてただ力強く羽ばたく翼で風を捕らえ、前へ前へと進んでゆく。
珍しい野生のラプラスの群れを少し遠くに見つけた所で、漸くはねえ、と口を開いた。を乗せたドラゴン──カイリューは、僅かにスピードを落とすと背に乗るへと振り返る。
「カイリュー、私、なんて言ったらいいのか……」
上手く言葉が見付からないのだろう。の言葉は途切れ途切れだ。しかしカイリューは穏やかな笑みを浮かべ、そんなの言葉の続きを待っているようだった。前方に見えているラプラスの群れはまだ遠い。ラプラス達の後ろ姿へと目を向けながら、はカイリューの首を撫でた。カイリューが擽ったそうに身を捩って笑う。ミニリュウの頃から、カイリューは首を撫でられるのが好きだった。
「そうだなあ、……まずは、おめでとう。本当に、おめでとう」
繰り返して言ってからは笑みを浮かべた。が笑みを浮かべたのが気配で伝わったのか、カイリューも目を閉じて笑う。そしておめでとう、というの言葉を心の中で何度も繰り返した。それから最高の気分だ、とカイリューは鼻を鳴らす。──今日はカイリューが、ハクリューからカイリューへと漸く進化 した日だった。
「カイリューに進化したことが嬉しいのは勿論、こんな光景を見ることが出来て……、何だか胸がいっぱいで、さっきから何か言おうとは思うんだけれど、上手く言葉に出来ないや」
先程の言葉から少しの間を置いて、が笑いながら言った言葉を聞いたカイリューは首を傾げると機嫌良く尻尾で海面を叩いた。その反動で上がる水飛沫に、太陽の光がきらきらと輝く。ラプラスの群れはもうすぐそこだった。優雅に泳ぐラプラス達と並ぶように、カイリューは更にスピードを落とす。ラプラス達はカイリューとを見ると警戒する素振りも見せず、それ所か優しく微笑んだ。そしてラプラス同士で目を合わせると、くるると美しい歌声を響かせ始める。ラプラスの歌声は波の音と溶けるように広がり、軈てそれを聞いたネオラントやマンタイン、ホエルコ達が何処からか姿を現した。
「こんな素敵な世界を見ることが出来るなんて、なんてお礼を言ったら良いのか……」
胸を打たれ、軈て自然と溢れ出した涙もそのままにが呟く。しかしカイリューは首を振る。お礼 を言いたいのは、寧ろ自分の方だった。ミニリュウだった頃、野生のポケモンとの戦いに敗れて傷だらけだった自分を助けてくれたこと、自分の棲み処の周りの世界しか知らなかった自分に知らない世界を見せてくれたこと、いつだって一緒にいてくれたこと、それら全てにカイリューはありがとうと伝えたかった。
カイリューはもう一度へと振り返ると、にこ りと目を細めて機嫌良く鳴いた。──自分が連れて行くことの出来る所なら、何処までだって連れていってあげる。に見せたい世界はまだまだたくさんあるんだ。だからよおく見ててね。
この言葉が伝わりますように、そう思いながら。
よおく見ててね、瞬きもだめだよ/20130724
企画サイト「こわくないよ」様へ提出させて頂いたものです。
素敵な企画をどうもありがとうございました!
美しい光景だった。それらの美しさ全てを表現する言葉が見当たらず、何一つ見落とさないように目を開いていることしか出来ない程の絶景。静かに、ただその美しい光景に目を奪われていたは何かを口にしようとしたが、やはりそれは言葉にならず全て溜め息となって潮風が浚っていった。そんなを背に乗せて、一匹のドラゴンがその青い海を駆ける。大きな身体はまるで風のように軽く、重力なんてものは存在しないように見えた。その海を駆けるドラゴンはを乗せて海面を跳ねるテッポウオ達の群れを追い越して、海の上の岩で日光浴をするサニーゴの群れの間を飛び、時折顔を出すタッツーには手を振って、そしてただ力強く羽ばたく翼で風を捕らえ、前へ前へと進んでゆく。
珍しい野生のラプラスの群れを少し遠くに見つけた所で、漸くはねえ、と口を開いた。を乗せたドラゴン──カイリューは、僅かにスピードを落とすと背に乗るへと振り返る。
「カイリュー、私、なんて言ったらいいのか……」
上手く言葉が見付からないのだろう。の言葉は途切れ途切れだ。しかしカイリューは穏やかな笑みを浮かべ、そんなの言葉の続きを待っているようだった。前方に見えているラプラスの群れはまだ遠い。ラプラス達の後ろ姿へと目を向けながら、はカイリューの首を撫でた。カイリューが擽ったそうに身を捩って笑う。ミニリュウの頃から、カイリューは首を撫でられるのが好きだった。
「そうだなあ、……まずは、おめでとう。本当に、おめでとう」
繰り返して言ってからは笑みを浮かべた。が笑みを浮かべたのが気配で伝わったのか、カイリューも目を閉じて笑う。そしておめでとう、というの言葉を心の中で何度も繰り返した。それから最高の気分だ、とカイリューは鼻を鳴らす。──今日はカイリューが、ハクリューからカイリューへと漸く進化 した日だった。
「カイリューに進化したことが嬉しいのは勿論、こんな光景を見ることが出来て……、何だか胸がいっぱいで、さっきから何か言おうとは思うんだけれど、上手く言葉に出来ないや」
先程の言葉から少しの間を置いて、が笑いながら言った言葉を聞いたカイリューは首を傾げると機嫌良く尻尾で海面を叩いた。その反動で上がる水飛沫に、太陽の光がきらきらと輝く。ラプラスの群れはもうすぐそこだった。優雅に泳ぐラプラス達と並ぶように、カイリューは更にスピードを落とす。ラプラス達はカイリューとを見ると警戒する素振りも見せず、それ所か優しく微笑んだ。そしてラプラス同士で目を合わせると、くるると美しい歌声を響かせ始める。ラプラスの歌声は波の音と溶けるように広がり、軈てそれを聞いたネオラントやマンタイン、ホエルコ達が何処からか姿を現した。
「こんな素敵な世界を見ることが出来るなんて、なんてお礼を言ったら良いのか……」
胸を打たれ、軈て自然と溢れ出した涙もそのままにが呟く。しかしカイリューは首を振る。お礼 を言いたいのは、寧ろ自分の方だった。ミニリュウだった頃、野生のポケモンとの戦いに敗れて傷だらけだった自分を助けてくれたこと、自分の棲み処の周りの世界しか知らなかった自分に知らない世界を見せてくれたこと、いつだって一緒にいてくれたこと、それら全てにカイリューはありがとうと伝えたかった。
カイリューはもう一度へと振り返ると、にこ りと目を細めて機嫌良く鳴いた。──自分が連れて行くことの出来る所なら、何処までだって連れていってあげる。に見せたい世界はまだまだたくさんあるんだ。だからよおく見ててね。
この言葉が伝わりますように、そう思いながら。
よおく見ててね、瞬きもだめだよ/20130724
企画サイト「こわくないよ」様へ提出させて頂いたものです。
素敵な企画をどうもありがとうございました!