ミシロタウンを旅立つ時にはの足元をちょこまかと落ち着き無く駆け回っていた小さなアチャモも、ホウエン地方をぐるりと回って再びミシロタウンの地を踏む頃には、二度の進化を遂げての背を追い抜かしてしまっていた。
昼を過ぎたばかりの、太陽が眩しい時間。101番道路からミシロタウンへと足を踏み入れてすぐに足を止めたは、隣に立つバシャーモを見上げると微笑んだ。の視線に気がついたバシャーモが、一体何だ、と問うような顔でを見下ろす。
「ふふ。旅に出た日、ミシロタウンの外に繋がるこの場所で、アチャモと一緒に”せーの!”って言って101番道路に足を踏み出したよね」
101番道路を振り返りながら、が思い出をなぞるように目を細める。バシャーモはの言ったことを思い出したのか、柔らかく笑うと頷いた。それからはミシロタウンの懐かしい故郷の匂いを乗せた風を小さく吸い込むと、バシャーモの手を取って歩き出す。
「よし。博士に図鑑を見せに行って、それから家に帰ろう。その方がゆっくり出来そうだし。私と同じくらいの日に帰るって言ってたから、ユウキくんやハルカちゃんにも会えるといいなあ」
自分と同じ時期にポケモンと図鑑を託されて、同じように旅立った友人の姿を思い浮かべながらがバシャーモに話し掛けると、バシャーモも自分の遊び相手だったキモリやミズゴロウの姿を思い浮かべた。きっと今ではどちらも自分と同じように進化を遂げているだろうから、もしも会えたらバトルをしてみたいが、どうだろう。そんなことを考えていると、がくすくすと笑い声を上げる。
「ユウキ君やハルカちゃんとバトルをしてみたいなって、思ってるでしょ」
考えていたことを言い当てられて、バシャーモが僅かに眼を見開いた。
「顔に書いてある」
それを聞いたバシャーモが、慌ててと繋いでいる手とは反対の手で自分の顔を抑えると、はまた笑ったのだった。
久しぶりにミシロタウンに帰郷したのことを、研究所のスタッフやオダマキ博士は温かく迎えてくれた。そして旅の話をし、殆ど埋まりつつあるポケモン図鑑を見て評価をしてもらうと、は口を開く。
「ユウキ君とハルカちゃんって、もうミシロタウンに帰ってきていますか?」
「ユウキは夕方頃になると連絡があったな。ハルカちゃんもまだじゃないかな」
のポケモン図鑑を閉じ、へと差し出しながらオダマキ博士が笑う。それを聞いたはその後も暫く他愛の無い会話をし、それから丁寧に礼を言うと研究所を後にした。
予めこの日に帰ると母親に連絡はしてあったが、家に着いたとバシャーモが玄関の扉を開けてひょこりと顔を出すと、母親は大袈裟過ぎる程に喜んだ。懐かしい家の匂いに、思わずの涙腺が少し緩む。それから「お父さんは?」と母親に訪ねると、母親は残念そうに首を振った。父親は仕事で忙しいので、カナズミシティにある会社に缶詰状態らしく今日は帰ってくることが出来ないそうだ。
「それじゃあ、今日と明日はミシロタウンでゆっくりして、明後日にでもカナズミシティに行こうかな。お父さんに顔を見せてくるよ」
「そしたらまた旅に出るの?」
「うん。図鑑がもう少しで埋まりそうだからね」
「もうちょっとおうちで休んでいくといいのに。は頑張り屋さんね」
バシャーモと顔を見合わせての母親が笑うと、バシャーモは肩を竦めた。それから母親はキッチンへと向かい、折角だからお昼を作るわね、と、とバシャーモに部屋で寛いでるように促した。その言葉に甘えてはバシャーモを連れて自室へと向かう。
「やっぱり、自分の部屋は落ち着くなあ」
ベッドに寝転がってルリリドールを抱きながらが呟くと、のいる方へと体を向けてベッド前に敷かれたカーペットに座るバシャーモが頷いた。戦闘の時に見せる鋭い眼つきや表情とは違い、とてもリラックスしたような顔をしている。
そんなバシャーモの顔を、起き上がってベッドの縁に座ったが見つめていると、バシャーモが不思議そうな顔でのことを見つめ返した。
「バシャーモは、変わったね」
それは、自然との口から出た言葉だった。
ミシロタウンを旅立つ時には当然ながらバシャーモはまだ小さなアチャモで、の足元をちょこちょこと落ち着き無く駆け回っていたし、野生のポケモンを怖がり、バトルで傷を負えばぴいぴいと泣いていた。会話をする時にはアチャモの方が背が低いので、の視線は下に向けられていたし、その小さな体を腕の中に閉じ込めることも出来た。
それが今ではとても落ち着いて、敵が現れれば当然の如くを下がらせて、恐れることなく敵に向かっていき、傷を負うことは殆ど無くなった。例え傷を負っても平気な顔をしていて、逆にが心配になる程だ。それに今ではバシャーモの方が背が高いので、会話をする時にはが見上げ、バシャーモがのことを見下ろしている。体を抱き上げることは出来なくなって、その代わりに、が足を挫いた時にバシャーモに抱き上げられたこともあった。
久しぶりに帰郷し、パートナーであるバシャーモの顔を見つめながら旅の思い出を振り返っていたら、成長したことが嬉しいような、淋しいような、少し複雑な気持ちになったのだ。
バシャーモはの顔を暫し見つめていたが、不意に手を伸ばすと、の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「わっ、わっ!」
突然のことに驚いてが驚いた声を上げると、バシャーモは肩を揺らして笑う。それを見たは、その笑い方はアチャモの頃のままだな、なんて思い、釣られて笑ってしまった。
それからお返し、とバシャーモの頭に手を伸ばすと、バシャーモの頭を優しく撫でる。すると、バシャーモは眼を細めて喜んだ。喉がくるると機嫌良さそうに鳴っている。
戦闘で勝った時やジムバッジを貰った時、コンテストで優勝した時の喜ぶ顔とは少し違う、が撫でた時にだけ見せる嬉しそうな顔。それを見たは、先程感じた少し複雑な気持ちなどあっという間に忘れてしまった。時間と共に変化していくものがあっても、変わらないものもあることに気がついたのだ。
「……やっぱり、さっきの言葉は取り消すね。バシャーモは、変わってないや」
があんまり嬉しそうにそう言ったからか、心地良さそうに眼を閉じていたバシャーモは、ぱっと眼を開くと不思議そうな顔でを見る。
「ううん。何でもないよ。ただ、バシャーモが可愛いなあって思っただけ」
母親が昼食の準備が出来たから、と呼ぶ声がするので、はベッドから立ち上がる。するとバシャーモも慌てて立ち上がり、先程の言葉の意味を尋ねるように、に向かって短く鳴いた。
「ほら。お母さんが呼んでるから、行かなくちゃ」
がそうはぐらかしてバシャーモの横を擦り抜けて部屋を出ると、バシャーモは少し不服そうな顔でその背中を追ったのだった。
(変化したもの、しないもの/20141129)
昼を過ぎたばかりの、太陽が眩しい時間。101番道路からミシロタウンへと足を踏み入れてすぐに足を止めたは、隣に立つバシャーモを見上げると微笑んだ。の視線に気がついたバシャーモが、一体何だ、と問うような顔でを見下ろす。
「ふふ。旅に出た日、ミシロタウンの外に繋がるこの場所で、アチャモと一緒に”せーの!”って言って101番道路に足を踏み出したよね」
101番道路を振り返りながら、が思い出をなぞるように目を細める。バシャーモはの言ったことを思い出したのか、柔らかく笑うと頷いた。それからはミシロタウンの懐かしい故郷の匂いを乗せた風を小さく吸い込むと、バシャーモの手を取って歩き出す。
「よし。博士に図鑑を見せに行って、それから家に帰ろう。その方がゆっくり出来そうだし。私と同じくらいの日に帰るって言ってたから、ユウキくんやハルカちゃんにも会えるといいなあ」
自分と同じ時期にポケモンと図鑑を託されて、同じように旅立った友人の姿を思い浮かべながらがバシャーモに話し掛けると、バシャーモも自分の遊び相手だったキモリやミズゴロウの姿を思い浮かべた。きっと今ではどちらも自分と同じように進化を遂げているだろうから、もしも会えたらバトルをしてみたいが、どうだろう。そんなことを考えていると、がくすくすと笑い声を上げる。
「ユウキ君やハルカちゃんとバトルをしてみたいなって、思ってるでしょ」
考えていたことを言い当てられて、バシャーモが僅かに眼を見開いた。
「顔に書いてある」
それを聞いたバシャーモが、慌ててと繋いでいる手とは反対の手で自分の顔を抑えると、はまた笑ったのだった。
久しぶりにミシロタウンに帰郷したのことを、研究所のスタッフやオダマキ博士は温かく迎えてくれた。そして旅の話をし、殆ど埋まりつつあるポケモン図鑑を見て評価をしてもらうと、は口を開く。
「ユウキ君とハルカちゃんって、もうミシロタウンに帰ってきていますか?」
「ユウキは夕方頃になると連絡があったな。ハルカちゃんもまだじゃないかな」
のポケモン図鑑を閉じ、へと差し出しながらオダマキ博士が笑う。それを聞いたはその後も暫く他愛の無い会話をし、それから丁寧に礼を言うと研究所を後にした。
予めこの日に帰ると母親に連絡はしてあったが、家に着いたとバシャーモが玄関の扉を開けてひょこりと顔を出すと、母親は大袈裟過ぎる程に喜んだ。懐かしい家の匂いに、思わずの涙腺が少し緩む。それから「お父さんは?」と母親に訪ねると、母親は残念そうに首を振った。父親は仕事で忙しいので、カナズミシティにある会社に缶詰状態らしく今日は帰ってくることが出来ないそうだ。
「それじゃあ、今日と明日はミシロタウンでゆっくりして、明後日にでもカナズミシティに行こうかな。お父さんに顔を見せてくるよ」
「そしたらまた旅に出るの?」
「うん。図鑑がもう少しで埋まりそうだからね」
「もうちょっとおうちで休んでいくといいのに。は頑張り屋さんね」
バシャーモと顔を見合わせての母親が笑うと、バシャーモは肩を竦めた。それから母親はキッチンへと向かい、折角だからお昼を作るわね、と、とバシャーモに部屋で寛いでるように促した。その言葉に甘えてはバシャーモを連れて自室へと向かう。
「やっぱり、自分の部屋は落ち着くなあ」
ベッドに寝転がってルリリドールを抱きながらが呟くと、のいる方へと体を向けてベッド前に敷かれたカーペットに座るバシャーモが頷いた。戦闘の時に見せる鋭い眼つきや表情とは違い、とてもリラックスしたような顔をしている。
そんなバシャーモの顔を、起き上がってベッドの縁に座ったが見つめていると、バシャーモが不思議そうな顔でのことを見つめ返した。
「バシャーモは、変わったね」
それは、自然との口から出た言葉だった。
ミシロタウンを旅立つ時には当然ながらバシャーモはまだ小さなアチャモで、の足元をちょこちょこと落ち着き無く駆け回っていたし、野生のポケモンを怖がり、バトルで傷を負えばぴいぴいと泣いていた。会話をする時にはアチャモの方が背が低いので、の視線は下に向けられていたし、その小さな体を腕の中に閉じ込めることも出来た。
それが今ではとても落ち着いて、敵が現れれば当然の如くを下がらせて、恐れることなく敵に向かっていき、傷を負うことは殆ど無くなった。例え傷を負っても平気な顔をしていて、逆にが心配になる程だ。それに今ではバシャーモの方が背が高いので、会話をする時にはが見上げ、バシャーモがのことを見下ろしている。体を抱き上げることは出来なくなって、その代わりに、が足を挫いた時にバシャーモに抱き上げられたこともあった。
久しぶりに帰郷し、パートナーであるバシャーモの顔を見つめながら旅の思い出を振り返っていたら、成長したことが嬉しいような、淋しいような、少し複雑な気持ちになったのだ。
バシャーモはの顔を暫し見つめていたが、不意に手を伸ばすと、の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「わっ、わっ!」
突然のことに驚いてが驚いた声を上げると、バシャーモは肩を揺らして笑う。それを見たは、その笑い方はアチャモの頃のままだな、なんて思い、釣られて笑ってしまった。
それからお返し、とバシャーモの頭に手を伸ばすと、バシャーモの頭を優しく撫でる。すると、バシャーモは眼を細めて喜んだ。喉がくるると機嫌良さそうに鳴っている。
戦闘で勝った時やジムバッジを貰った時、コンテストで優勝した時の喜ぶ顔とは少し違う、が撫でた時にだけ見せる嬉しそうな顔。それを見たは、先程感じた少し複雑な気持ちなどあっという間に忘れてしまった。時間と共に変化していくものがあっても、変わらないものもあることに気がついたのだ。
「……やっぱり、さっきの言葉は取り消すね。バシャーモは、変わってないや」
があんまり嬉しそうにそう言ったからか、心地良さそうに眼を閉じていたバシャーモは、ぱっと眼を開くと不思議そうな顔でを見る。
「ううん。何でもないよ。ただ、バシャーモが可愛いなあって思っただけ」
母親が昼食の準備が出来たから、と呼ぶ声がするので、はベッドから立ち上がる。するとバシャーモも慌てて立ち上がり、先程の言葉の意味を尋ねるように、に向かって短く鳴いた。
「ほら。お母さんが呼んでるから、行かなくちゃ」
がそうはぐらかしてバシャーモの横を擦り抜けて部屋を出ると、バシャーモは少し不服そうな顔でその背中を追ったのだった。
(変化したもの、しないもの/20141129)