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確かなことがひとつだけ

 ただ必死に走っていた。雷さえも避けられることが自慢だったスピードは、もう随分と落ちてしまっている。それでも、立ち止まることは許されない。
 立ち止まったら最後、ぴたりと背に張り付いている恐怖に飲み込まれてしまいそうだった。こわい。いやだ。ここにいたくない。帰りたい。帰りたい。帰りたい。胸の奥底からふつふつと沸き上がる気持ちを、丸ごと全部置き去りにするべく力を振り絞る。

 わたしはどうしようもなく焦っていた。故郷への帰り道も、その手掛かりさえも見つけられていなかったこともそうだけれど、何より──

「おい見ろよ! ニュースに映っていたやつだ!」

 この世界のいきもの──にんげんとポケモンというらしい──に、追われていたからだ。その理由はきっと、この世界がわたしにとって「未知のもの」であるように、彼らにとって、わたしが「未知のもの」だからだろう。未知のものに恐怖を抱くこと。わたしにはそれがよく理解できた。

 バクガメスと呼ばれたポケモンが、にんげんの指示通りに灼熱の炎を吐き出した。ただでさえボロボロのこのからだに、これ以上傷を増やす訳にはいかない。迫る赤をギリギリかわし、もう何で傷付いたのかも忘れてしまった足を勢いよく振り下ろす。振り下ろした足は槌となり、彼らの足場を派手に砕いた。「うわ!」動揺した声が耳に届く。

「うっ……、くそ! バクガメス! もう一度かえんほうしゃだ!」

 よろめきながら、体勢を立て直したにんげんが指示を出す。けれど、腰を抜かしたバクガメスは動かなかった。いや、動けなかった。こちらに向けられた瞳には、はっきりと怯えの色が浮かんでいる。バクガメスの大きなからだは小刻みに震えていて、わたしが睨み付けると気まずそうに目を逸らした。

「お……、おい!」

 バクガメスと同じように、小刻みにからだを震わせたにんげんの声が耳を打つ。それでも、バクガメスは動けないようだった。
 わたしと対峙して戦意を喪失したこのポケモンと、その後ろで焦りの表情を浮かべているにんげん。故郷とこの世界を繋いだ空間の歪みを見つけた時のわたし。ものは違えど「未知のもの」を前にしたそのすがたはよく似ていた。

 ええ、わかるわ。目の前の彼らに向かって、心の中でそっと頷く。
 未知のものは恐ろしい。だって、見たことのないものに触れたら指先が千切れてしまうかもしれない。棘が刺さるかもしれない。凍りついてそこから手が離れなくなってしまうかもしれない。見たことのないものを口にしたら、からだに毒が回るかもしれない。足の先から痺れてしまうかもしれない。二度と口が開けなくなるかもしれない。
 自分の知らないもの、理解が及ばないもの。それらに迂闊に関わった結果、何が起きるのか分からないから恐ろしいのだ。見たことのない空間の歪みに触れた結果、未知の世界に飛ばされて、故郷に帰ることができずにいるわたしのように。

 だから。わたしへ攻撃をした彼らに対して、「どうして」なんて憎しみを抱くことはなかった。ただ、仕方のないことだと思うだけ。それでもわたしはわたしが生きるためにいのちを燃やし、故郷では発揮することのなかったスピードと力を思う存分に奮った。
 目の前の未知のものを、こわいという感情ごと凪ぎ払っていく。叫び声と轟音を背に、わたしは駆ける。行き先なんてこの世界に来てから見つかることなどなかったけれど、立ち止まってなんていられない。

 ひたすらに走って、走って、走り続けて、やがてわたしはやわらかい砂の上に倒れ込んだ。追われては戦い、逃げて、ほんの少しだけ休んで、また戦って。その繰り返しで、からだはとうに限界だった。当然のようにこの世界の何かを口にすることもなく、体力は底をついていた。
 幸いにも追っ手はない。けれど、どうしようもなく疲れてしまった。もっと遠くへ、そう、誰もいないようなどこかへ逃げないといけないけれど、少しだけ休ませてほしいと星明かりに目を閉じる。

 ──この世界について、分かったことがいくつかある。
 にんげんとポケモンといういきものがたくさん暮らしていること。この世界の空も、故郷の空と同じく青いこと。私の故郷の「海」は白い砂からなっていたけれど、この世界では地の果てまで広がる大きな水溜まりが海であること。
 それから、この世界にとってやっぱりわたしは存在してはいけないいきものであるということ。
 そんなことを考えている間に、意識が遠退いていく。懐かしい故郷の景色が、脳裏に浮かんだ。



「……ねえ、起きて。起きてったら」

 からだを揺すられて、意識が浮上する。深い海の底から引き上げられるような感覚に飛び起きると、驚いた顔のが目に入った。窓のカーテンの隙間から滑り込んだ月明かりが、の輪郭をぼんやりと浮き上がらせている。

「……大丈夫? すごくうなされてたよ」

 何度か瞬きを繰り返した後に辺りを見回すと、今ではもうすっかり見慣れてしまった本棚やテーブルが目に入った。ふるりと頭を振ると、徐々に意識が覚醒する。どうやら、微睡む内に昔の夢を見ていたらしい。
 今から一年ほど前、故郷に突如現れた空間の歪み──ウルトラホールに飲み込まれ、この世界に流れ着いた頃の夢だ。嫌な夢。わたしが顔をしかめたことに気がついたのだろう。が心配そうな表情を浮かべた。大丈夫、と意味を込めて首を振る。それから、わたしはそっと目を閉じた。

 恐怖を感じた時に、瞼を下ろす。これは、この世界にきてから身に付いたわたしの癖だ。

 この世界に流れ着いた当初は、当然ながら何もかもが未知のものだった。すべてが恐ろしく見えたし、穢らわしいと感じた。触れるなんて以ての外。
 そんな中、帰りたいと切望し、思い浮かべた故郷だけはとても美しかった。どこまでも果てのない青い空。白い砂の海。日の光に輝く青緑色の鉱石。頬を撫でるそよ風と、揺れる緑色の植物。白い砂の海を駆けた時の感触と音。未知のものなんて何一つない世界。目蓋の裏に焼き付いた、鮮やかな景色。そんな故郷の記憶に触れると、ほんの少しだけ恐怖が和らいだのだ。

 それからわたしは、恐ろしい夢を見た時なんかには目を閉じて、懐かしい景色を思い出すようになった。私の知らないものがひとつもない、美しいその景色はわたしにとって慰めであり、心の支えだったのだ。

 けれど最近、目を閉じた時に浮かぶ故郷の景色が以前よりもおぼろげになっていた。
 今だってそうだ。思い出せるのは、どこまでも続く白い砂の海と白い岩の城。エメラルドグリーンの鉱石の山。青い空。けれど、それらのにおいはどんなものだっただろう。乾いた砂の匂いが漂っていたような気もするけれど、はっきりと思い出せない。白い砂の海を駆けた時の感触は? どうだっただろう。さらさらしていた気もするし、ほんの少しざらついていたような気もする。

 この世界のものに触れ、この世界について知る度に、記憶の中の故郷の鮮明さは少しずつ薄らいでいくようだった。
 日々不確かになっていく記憶に、「このままだと、わたしは故郷を忘れてしまうんじゃないか」と、ほんの少し不安になる。……でも。大丈夫。全てを忘れてしまった訳じゃない。今はもう触れることができないあの美しい景色は、辛うじてまだ、わたしの心の奥に残っている。

 何度も自分に「大丈夫」と言い聞かせ、深い呼吸を繰り返し、心が落ち着いたのを確かめてから目を開く。

「……落ち着いた? 良かったらさ、少し散歩に行かない?」

 ベッドから下りたが、わたしが起きた時にはね飛ばした毛布を拾い上げながら言った。どうやら、悪い夢を見たわたしを気遣っているらしい。「どう?」毛布を綺麗に畳んでベッドに置いたに尋ねられ、悩んだ末にわたしは頷いた。


 町外れの砂浜にやって来たわたしとは、何かを話すこともなく柔らかい砂の上をゆっくりと歩いていた。
 歩く度にサクサクと音を立てて、足の先がほんの少し沈む。夜のとばりの色に染まった海が、月明かりの下で穏やかに揺れていた。寄せては返す波の音が、ざんざんと静かに響いている。無音ではないけれど、それでも十分すぎるほどに静かな空気は心地がいい。
 海を眺め、それから少し先をいくの背中を見つめていると、ふと昔のことを思い出した。昔、とはいっても一年にも満たないくらい前のことだ。

 この世界に迷い込み、力尽きて砂浜に倒れていたわたしに話しかけてきたのがだった。
 大丈夫? そう問いかけながら伸ばしてきた指を、最後の力を振り絞って切り落としてしまおうかと思ったことを覚えている。未知のものに触れられるなんて、何が起こるか分からない。故に、嫌悪しかなかった。
 けれどそれが出来なかったのは、痛みでからだが上手く動かなかったこともそうだけど、わたしに向けられた瞳が悲しそうに揺れていたからだ。
 この世界に迷い込んでから燃えるような眼差しを向けられることは何度もあったけれど、まるで自分が傷を負っているかのような、悲しみや苦しみの色が浮かぶ目を向けられたのは、これが初めてだった。

 ──そんなもの、知らない。何、何なのそれは。

 そう、呆然としている間ににんげんの手がわたしの頬に触れ、壊れ物を扱うようにやさしく撫でた。何も起きないという安堵と、未知のものに触れられた嫌悪感と、どうしてそんな風に触れるの、そんな気持ちがごちゃごちゃと渦を巻いて気持ちが悪い。

「随分とからだがボロボロね。よかったら、手当てをしてあげる。……立てそう?」

 聞きなれていないにんげんのことばは、まるで理解できなかった。そうっとにんげんに手を引かれたわたしは、このままでいる訳にもいかないと、痛みと吐き気、それら嫌悪感を堪えて素直に立ち上がる。

「大丈夫? 少し歩くけれど、頑張れそう?」

 ことばの意味が理解できないので曖昧に頷いたものの、にんげんは安心したように笑った。にんげんはわたしに比べて背が低く、怪我さえなければ一突きで容易く息の根を止められそうなほど頼りなく見える。
 けれどどうしてか、わたしの手を引くその手は簡単には振りほどけそうにないなと思った。


 にんげんはわたしを敵だとは認識していないようだった。それどころか、わたしを助けようとしているらしい。
 にんげんの棲み処に案内され、そのことに気が付いたわたしは彼女を利用しようと考えた。考えてみれば、故郷にいつ帰ることができるかも分からない中、わたしに手を差し伸べるいきものは貴重な存在だったのだ。
 だからわたしは吐き気を抑え、大人しくからだの手当てを受け入れた。嫌悪感を堪えて思考を巡らせる。
 ──尽くしてくれるというのなら、故郷に帰る日まで尽くしてもらおう。それまで、精々わたしは大人しいフリをしていよう。いざ故郷に帰る日がきて、その時このにんげんが邪魔になったのなら消してしまえばいいのだ。

 そう、思ったのだけど。結局、私は故郷に帰ることができないまま、一年もの時間をの隣で過ごしている。その間に、に触れられることにはもう慣れてしまっていた。
 不本意ながら、に対してわたしは、穢らわしいという嫌悪感を抱くことも忘れたようだった。


「夜風が気持ちいいね」

 不意に歩みを止めたが、海を眺めながら言った。彼女と過ごす内にこの世界の言葉の殆どを理解することができるようになっていたわたしは、の隣に並び立って静かに頷いた。夜の色を溶かしたの目が、すうっと細くなる。

「フェローチェ」

 フェローチェ。この世界に迷い込んだわたしに与えられた、わたしといういきものを、他のいきものと区別するための名前。

『あなた、フェローチェって名前だったのね。なんて呼んだらいいか分からなくて困ってたの』

 いつだったか、テレビで流れていたニュースを見たがそう言ってから、わたしの名前はフェローチェになった。
 初めてその響きを耳にした時、「そんなもの、知らない」と思ったのだけど。ニュースの映像よりも、「大変危険なウルトラビーストです」「見かけても絶対に近寄らないこと」なんてコメントを気にするよりも、「あなたの名前が分かってよかったあ」と笑うを見ていたら、何だかあれこれ考えるのも馬鹿らしくなって、それならもうフェローチェでいいと思ってしまったのだ。
 初めはその名で呼ばれても、当然違和感しかなかった。だというのに、今ではすぐに反応を示してしまうくらいには、この身にその名前は馴染んでいる。

「気分はどう? 少しはよくなった?」

 ええ、大分よくなったわ。の問い掛けの返答として首を縦に振る。するとは安堵した様子で肩の力を抜いた。穏やかな慈愛に満ちたような眼差しを向けられたわたしは、堪えきれず目を逸らしてしまう。
 悪夢から目覚めた時に比べ、気分は随分と晴れている。ところが今度は胸が締め付けられるように痛み、苦しくなった。にんげんやポケモンと戦った後のように脈も早い。自身の心臓の音がやけにうるさくて、抑えつけるように胸に手を当てる。

 いつからか、ふとした時にこの症状が現れるようになった。どんな時に現れるのか正確には分からない。しかし、決まって胸が締め付けられるように痛み、脈が早くなって、深い海の底に引き込まれるような、溺れているような息苦しさを覚えるのだ。
 何度か経験しても慣れない未知の感覚に全身が粟立つ。けれど不思議と嫌悪感を抱くことはなかった。ただ、どうしようもなく心が落ち着かない。一体わたしはどうしてしまったのだろう。

「フェローチェ?」

 に呼ばれて、顔を上げる。

「……本当に、よくなった? 無理してない?」

 心配そうに、が眉を寄せている。ええ、本当よ。顎を引いて頷いて見せるとは訝しげな表情を浮かべたが、再度問いかけても答えは変わらないと思ったのだろう。「そろそろ帰ろうか」そう言って、わたしの手を取った。
 どうしてか、また、胸が痛んだ。


 
 あれから季節がいくつか過ぎ去った。相変わらず、わたしはの隣で呼吸している。
 この世界に流れ着いた頃の嫌な夢を見ることは随分と減り、その代わりに、あの胸が締め付けられるように痛んで苦しくなったり、脈が早くなる症状が起きる頻度が増していた。


「誰もいなくてよかったね」

 やわらかな月明かりが降る花畑の入り口で、そう言ってが笑みを浮かべた。今日は何度か訪れたことのあるメレメレの花畑へとやってきたのだ。にび色の光に照らされて、黄色の花が風に揺れている。

 この世界が好きじゃないということもあるけれど、何より未だに未知のものばかりで恐ろしいし、穢れを感じるし、その上いつの間にか「ウルトラビースト」という分類をされたわたしは滅多に外に出ない。
 けれど、それじゃあ息が詰まるでしょう。と、は時々日が落ちてからわたしを連れて散歩にいく。

 わたしの手を引いてが花畑に歩み寄る。初めてここを訪れた時は、この黄色の花すらも恐ろしかった。触れても大丈夫だろうか。何も起きないといいけれど。そうあれこれと心配したものだ。

「そういえば、フェローチェのいた世界にも、こういう花があったの?」

 花畑の真ん中辺りまでやって来たところで、不意にに尋ねられた。どうだったかしら。なんて思いながら、わたしは胸の奥にしまってあるはずの故郷の記憶を手繰り寄せる。

 思い出せたのは、霞んだ空と白い砂の海だった。それ以外は靄に包まれたように滲んでしまっている。
 思わず眉をひそめた。この世界で過ごす時間が長くなるのに比例して、美しかった故郷の景色がひとつ、またひとつとおぼろげになっていく。空の色の青さも、白い砂の海を踏み締めた時の感触も、音も、もう思い出せない。風の匂いも手触りも、すべてが曖昧だった。
 最近は嫌な夢を見ることが少なかったから、故郷を思い出す機会もめっきり減っていた。だからといって、ここまで忘れてしまったなんて。故郷が、わたしの知らないものなどなかった世界が、どんどん遠く分からないものになっていく。そのことに気が付いた瞬間、ぞくりと背筋が震えた。

 今まではこわいと感じた時に故郷を思い出していたというのに、今は故郷を忘れゆく恐怖でどうにかなってしまいそうだった。ああ、どうして花があったかすらも思い出せないの。早く、早くわたしの心を落ち着かせてほしい。苛立ちを抑えて目を閉じる。

 そうして思い浮かんだのは。故郷の景色ではなくの姿だった。

 何故、が思い浮かぶの。驚いて目蓋を持ち上げると、黄色の花に囲まれてこちらを心配そうに見つめると目があった。彼女を見つめると、不思議と恐怖の波が引いていくような心地を覚えた。それと同時に、脈が早くなっていく。気のせいか顔が熱い。
 ああわたしは、もしかして。

「フェローチェ」

 わたしの顔を覗き込んだに、両手を包み込むように握られる。呼び声に応えるよう心臓が大きく跳ねた。自分の鼓動が煩いくらいに耳に響いている。

 今までずっと、この、ふとした時に現れるようになった症状の原因が分からずにいた。
 胸が締め付けられるような痛みと苦しみを感じるのも、脈が早くなって、深い海に溺れているような息苦しい錯覚を覚えるのも、わたしのどこかが壊れてしまったからだろうと思っていた。
 故郷とは似ても似つかないこの世界に迷い込み、知らない空気、においをからだの中に取り込んでいる内に、何かが──きっとそう、毒のようなものが、ゆっくりとからだに回ってしまったのだと、そう思っていたのだ。

 けれど、そうじゃなかった。わたしは壊れてしまった訳じゃない。その原因を今、確かに理解した。今まで抱いていた、からだを支配する未知の感覚への疑問が静かに溶けていく。それと引き換えに心がざわついて、ふるりとからだが震えた。

 の手を引く。「わっ!」驚いた声を上げたものの、何の抵抗もなくのからだはわたしの腕の中に収まった。

「どうしたの? フェローチェが甘えてくるなんて、珍しいね」

 ふっと息を吐いたが手を伸ばし、わたしの背を覆う燕尾のベールをあやすように撫でた。
 そうね。でも、今はそういう気分なの。わたしのことばなんてこれっぽっちも伝わらないけれど、そう意味を込めて囁いた。の肌を裂いてしまわないよう細心の注意を払い、わたしも彼女の背をそっと撫でる。わたしとはかたちの違う熱いほどの体温が、からだをじんわりと侵食していく。くすぐったそうに笑い、わたしを呼ぶの声が心地よかった。

 視界の端で、いくつかの黄色の花弁がにび色に照らされて風に舞った。群青の空に吸い込まれていくそれらを見送って、わたしは目を閉じる。おぼろげな故郷が浮かび、揺らいで消えて、すぐにの姿が浮かんだ。そのことにもう、驚きはしなかった。

 今しがた理解したこと。──わたしは、に恋をしている。恋というものはわたしにとって、まったくの未知のものだ。未知のものはこわい。けれどどうしてか、この感情に嫌悪はない。それどころか、今はこの感情に身を委ねてしまいたかった。

 身を委ねた結果がどうなるのかは分からない。けれど行き着く先にがいるのなら、それでいい。


(20210423)