白い帯のような雲が空には広がっている。甘い香り漂う花畑に腰を下ろしたリーフィアは、ゆったりと風に漂うその雲を眺めながら一つ欠伸を漏らした。空からはさんさんと柔らかく温かな太陽の光が惜しみなく降り注いでいて、その心地好さが眠気を誘うのだ。

 現に、リーフィアの隣でリーフィアのパートナーであるは少し前からすやすやと眠ってしまっている。リーフィアはの体に擦り寄ると、それからの服の裾を口にくわえて軽く引っ張った。
 せっかく普段はあまり訪れることのない遠くの花畑へ来たのだから、遊ぼう。そうリーフィアが鼻を鳴らしても、はううんと小さく唸るだけで一向に目を覚ましそうにない。

 そこでリーフィアはもう一度の服の裾を引っ張ろうとしたが、ふと昨夜はが夜遅くまで家に持ち帰った仕事をしていたことを思い出すと、服の裾を口から離した。きっとは疲れているのだろう。それなら、眠っているのを起こしてしまうのはかわいそうだ。そう思ったのである。


 を起こすことを諦めたリーフィアは、辺りを見回すと少し離れた場所で群れるビビヨンに眼をつけた。桃色の羽は、花畑の色を映したように鮮やかだ。美しい羽を暫し見つめると、ビビヨン達の元へと駆け寄る。

 ビビヨン達はリーフィアが近付いても逃げる素振りは見せず、それ所か新しい遊び相手ができたと喜んだ。そのビビヨン達の様子にリーフィアもぱっと顔を綻ばせると、きゅうんと嬉しそうに鳴く。

◆◆◆


 花畑へとやって来たはいいがその陽だまりの心地好さについ眠ってしまったが目を覚ましたのは、随分と時間が経った頃だった。

 気を抜いてしまえば再びまどろんでしまいそうだと、上体を起こしたはふるふると眠気を振り払うように首を振った。それからパートナーであるリーフィアの姿が見えないことに気が付くと、座ったまま慌てて辺りを見回す。
 すると遠くにビビヨンの群れと追いかけっこでもしているのか、花弁を舞い上げながら飛び跳ねるリーフィアの姿が見えた。

 すぐにリーフィアのことを呼ぼうとしただったが、せっかく新しい友達ができたのなら、と開いた口を閉ざし笑みを浮かべる。楽しそうなリーフィアの姿は、自然との心も楽しくさせるのだ。

 暫く遠くで遊ぶリーフィアをが眺めていると、どうやらリーフィアはの視線に気が付いたようだった。あんなに忙しなく動き回っていた体はぴたりを動きを止めて、耳がぴんと立っている。
 そしてほんの数秒の間を置いたかと思うと、ぱっと花を散らしての元へと一目散に駆け寄ってきた。

「リーフィア、おはよう」

 飛びつくリーフィアの体をが抱きしめると、リーフィアはの胸元に身を寄せ、それからの頬をぺろりと舐める。

「ここ、すっごく気持ちいいね。ちょっと横になったら思わず寝ちゃったもん」

 はそう言って肩を竦める。リーフィアはそんなに対してわざとらしく頬を膨らませたが、すぐにくすくすと楽しそうに笑った。

「よし!いっぱい休んだし、今度はリーフィアと遊ぼうかな」

 その言葉にリーフィアはきゅうんと嬉しそうに鳴いた。長い尾がゆらゆらと風にそよぐ花と同じように揺れる。
 そしてがリーフィアの頭を撫でながら何をしたいかと尋ねると、リーフィアは少し考え込む素振りを見せてから、するりとの腕を抜け出した。それから足元に咲く白い花を一つ、口にくわえての手元に落とす。

「この花を、どうするの?」

 が不思議そうに首を傾げると、リーフィアは今度は桃色の花を摘み、の手元に落とした。何かを期待するような眼差しで見つめられたは、リーフィアの言いたいことが分かったのだろう。ああ、と声を漏らすと二本の花を手に取った。

「花冠、でしょ」

 リーフィアが頷いて見せると、は白い花に桃色の花の茎をくるりと巻き付ける。そして私が編むから、リーフィアは好きな花を集めてきてくれる?と告げると、リーフィアは嬉しそうに瞳を輝かせて駆けていった。



 が花を編んでいくよりもずっと、リーフィアが気に入った花を集めるスピードの方が早かった。お陰で今、膝を崩して座るの隣には、ちょっとした花の山が出来上がっている。
 そしてリーフィアは、の前に座って花冠が出来上がるのを今か今かと見守っていた。

「まだもう少しかかるよ」

 思わずふふ、と笑ってしまいながらが編みかけの花冠をよく見えるようにと見せると、リーフィアは催促するように鼻を鳴らした。
 

 暫くしてが体勢を変えて足を伸ばして座ると、その足の間にむりやりリーフィアが滑り込む。そしての太ももを枕にするように頭を乗せた。

「もう、そんな風にしていたら花冠が完成する前に寝ちゃうでしょう」

 の言葉に、リーフィアは得意げにふふんと笑った。まるで自分はうっかり寝たりしないもんね、とでも言いたげな様子である。
 本当かなあ、とは笑う。何故なら、リーフィアはビビヨン達と遊び疲れたのか、それともこの心地好い陽射しのせいなのか、既に少し眼がとろんとしていたのだ。

◆◆◆


 花冠の最後の部分を編み終えて、上手く輪の形にしたはリーフィアの顔を覗き込んだ。随分と大人しくなったと思ったが、案の定リーフィアはすうすうと寝息を立てている。頭を撫でてもリーフィアが起きる気配は無い。
 どうしたものかと考えて、一先ずはリーフィアの頭にそっと花冠を乗せてやった。

 するとその時丁度後ろから小さな鳴き声が聞こえたので、はゆっくりと振り返る。そこには先ほどリーフィアと遊んでいたビビヨンの群れの内の一匹がいた。

「さっきリーフィアと遊んでくれてたよね。ありがとう」

 ビビヨンはその場で優雅にくるりと回る。そしてリーフィアの顔を覗き込み、それからその頭の上に乗せられた花冠に眼を留めた。ビビヨンが眼を輝かせて花冠を見つめていることに気が付いたは、リーフィアの頬をゆるりと撫でると口を開く。

「リーフィアが起きたら、また一緒に作るね。そしたらあなたにあげるよ」

 それを聞いたビビヨンが嬉しそうに舞う。はリーフィアとビビヨンがお揃いの花冠を頭に乗せている様子を思い浮かべると、その微笑ましい様子と花畑を駆ける心地好いそよ風にそっと笑みを浮かべた。


しあわせはまあるいかたち/20160108
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