惜しみ無い陽射しが降り注ぐ公園の中央は、明るく賑やかな声が響いている。子供達がポケモン達と転げ回るようにして遊んでいるのだ。そんな微笑ましい様子を眺めながら、僕は公園の隅にあるベンチへと辿り着いた。
公園の中には至る所にベンチが設置されているが、僕はこの公園の隅にあるベンチがお気に入りだ。
それはこんな隅にあるベンチには誰も立ち寄らず、公園の賑やかさとは掛け離れた静けさがこの場所にはあるからであり、また、公園の様子をよく見渡すことが出来るからだ。
ところがこの日は珍しく先客がいて、それを見た僕は思わず少しだけ顔をしかめた。一人の女の子が、ベンチの左端に座っていたのだ。何やら膝にスケッチブックを乗せて、右手に持った色鉛筆を忙しく動かしている。
僕だけのとっておきの場所だったのにな。そんなことを考えながら、ベンチの右端にぴょんと飛び上がってベンチに乗ると、そこでいつものように伏せる。
引き返そうかとも思ったのだけれども、何だかここで引き返すのは、少し癪に思ったのだ。
僕が前足に顎を乗せて伏せていると、僕より先にベンチに座っていた女の子が、手を止めて僕にちらりと眼を向けたのが分かった。
しかし、すぐに自分の膝の上へと視線を戻すと、また先程のように色鉛筆を動かし出した。
しゃかしゃかという紙の上を色鉛筆が走る音は聞きなれないものだったけれども、まあ、煩くはないかな。そんなことを考えていると、僕は午後の陽気に誘われて、つい眠ってしまった。
眼を覚ますと、辺りはまだ明るいままだった。どうやら一時間程眠ってしまったらしい。そういえば、と思って隣を見ると、そこにはもうあの女の子はいなかった。
***
その次の日、お気に入りのベンチへと僕がやって来ると、そこにはまたもあの女の子がいた。昨日と同じようにまた、スケッチブックを膝に乗せて色鉛筆を忙しく動かしている。女の子は僕がやって来たことに気が付くと、やっぱりちらりとだけ僕を見た。しかしその視線はすぐにスケッチブックへと戻る。
僕はベンチの右端に飛び乗ると、また昨日のように伏せる。それから薄目を開けてこっそりと女の子の様子を伺うと、女の子が自分の右隣、つまり僕との間に置いている色鉛筆の箱に、名前が書いてあるのを見付けた。
ふうん。って言うんだ。そんなことを思いながら僕は薄目を開けるのを止め、しっかりと眼を開くと公園の中央を眺めた。男の子とジグザグマが、声を上げながらボールを追い掛けているのが見える。
そうして暫くの間公園の様子を眺めていると、不意にしゃかしゃかという音が止んだ。僕の右耳が、思わずのいる方へと傾く。
は色鉛筆を片付けて、スケッチブックを閉じると立ち上がった。どうやら帰るらしい。ベンチを去る間際、は僕の姿をちらりと見たようだった。僕も横目でちらりと伺ったので、本当にが僕のことを見たのかは分からなかったけれども。
その次の日も、そのまた次の日も、それより何日か経った日も、やっぱりは僕のお気に入りの、公園の隅にあるベンチの左端に一人で座っていた。だから、僕もやっぱり右端に飛び乗り、伏せる。
こうして殆ど毎日顔を合わせるようになったけれど、が今何をスケッチしているのか、僕は知らない。ただ、前にちらりと覗き見た時は公園で見掛けるポッポやタネボー、スボミーの絵が見えたから、きっと何か公園にいるポケモンをスケッチしているのだろう。
そんなことを考えながら、僕は公園の中央で縄跳びをする女の子と、それを真似してフシギダネの伸ばした蔓で縄跳びをするミミロルを眺めていた。その時丁度ぱらりと音が聞こえ、思わず僕の耳がぴくぴくと動く。どうやら、がスケッチブックのページを捲ったようだった。
何か新しいものでも描くのだろうか。そう思ってそっと気付かれないように横目での様子を盗み見ると、驚いたことには僕のことをじっと見つめていた。今までこんなにも見つめられたことは無くて、思わず僕はどきりとしてしまう。それからなんてことはない風を装って、公園の中央にこっそりと視線を戻した。
どうやらは僕のことをスケッチしているようだ。その事に気が付くと、僕はどうしてもの膝の上にあるスケッチブックが覗いてみたくなってしまった。暫くはの遠慮のない視線を堪えていたのだけれども、何だかむずむずとしてきて、思い切った僕はベンチの上で起き上がる。
突然僕が起き上がったので、は驚いたようだ。そんなのお構い無しに、僕はそのままずんずんとベンチを歩くと、驚いて固まるの膝の上のスケッチブックを、遠慮なく覗き込む。
そこに描かれていたのは、やっぱり僕だった。公園の中央を眺める、僕の伏せた姿。描きかけでもその絵は鏡に映したように僕にそっくりなので、思わずぽかんと口が空いてしまう。そうしてふんふんと僕がスケッチブックを眺めていると、控えめな声が聞こえた。初めて聞く、の声だ。
「あの。えーっと……」
どうしたらいいか困っているらしく、その後はは何も言わない。僕がを見上げて尻尾を振って見せると、は漸く笑った。
「あなた、野生なのに人懐っこいのね」
そう言われて、僕は首を傾げる。
「こんな所にブラッキーがいるんだって驚いて、スケッチをしたいなあってずっと思ってたの。でも折角こんなに近くにいるのに、何かしちゃって、驚かせたりしたら、もう姿を見ることができなくなっちゃうかなって思ってたから……あなたが人懐っこいって分かって、何だか安心しちゃった」
それからは、もし良かったら続きを描いてもいい?と尋ねた。僕は、別に断る理由も無いので頷く。すると彼女はとても嬉しそうに笑った。
公園の隅にあるこのベンチは、僕だけのとっておきの場所だったのだけれども。なら特別にここにいてもいいかな、なんて。僕は早速注がれるの視線に照れながら思ったのだ。
片隅は一人と一匹の特別な
20141016/2013七夕企画
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