遠くでムクバードか、ケンホロウの鳴き声が高く木霊している。木々の枝の上を二匹のパチリスが戯れ合いながら走り、その足音を聞いて木の根元からナゾノクサが顔を出したかと思うと、ナゾノクサは駆け出してすぐ近くの叢に姿を消した。それに驚いたキノココはその叢から顔を出したが、またすぐに姿を消す。多種多様の美しい自然のありのままの景色を眺めながら、#name1#は浅い湖の水を蹴った。裸足で浸る湖の水は清み渡り、ひやりと冷たくて気持ちがいい。
#name1#が湖の水に浮かぶ野生のハスボーとウパーに水を掛けたり、はたまた逆に水鉄砲で水を掛けられたりしていると、湖の淵に腰を掛けていたコノハナが何かに警戒するように立ち上がった。それに気が付いた#name1#がハスボーとウパーとの攻防を一度止めて辺りを見回すと、一瞬叢の辺りの景色がぐにゃりと歪んだ。それを目にした#name1#はコノハナに向かって声を掛ける。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」
#name1#の言葉にコノハナが首を傾げると、コノハナの後ろから勢いよく風が吹く。勢いよく風を吹かせたそれは湖に立つ#name1#の周りをぐるりと旋回し、軈て湖の水面にいくつもの波紋を浮かび上がらせながら姿を現した。───光の屈折を自在に操ることで姿を消したり現したりできる、夢幻ポケモンのラティオスだ。#name1#の目の前に姿を現したラティオスは、まるで挨拶をするように#name1#の頬に自分の頬を擦り寄せる。
「ラティオス、擽ったいよ」
#name1#が目を閉じながら笑い声を上げると、ラティオスは同じように眼を細めてくうくうと笑った。そしてラティオスは頬擦りをするのを止めると、手に持っていたいくつもの木の実を湖の清んだ水に浮かべる。#name1#とラティオスは昼前にこの森へとやって来たのだが、ラティオスは森に着くなりすぐに姿を消していた。それはどうやらこれらの木の実を集めるためだったらしい。
「こんなにたくさん…大変だったでしょう?ありがとう」
そう言って#name1#がラティオスの頭を指先で擽るように撫でると、ラティオスは機嫌良く鳴いた。そしてもっと撫でろと言わんばかりに#name1#の手のひらに頭を押し付ける。それに応えるように#name1#がラティオスの頭を指先では無く手のひらで撫でると、満足そうにラティオスはくるると喉を鳴らした。
そうして暫くは#name1#に大人しく頭を撫でてもらっていたラティオスだが、不意に何かを閃いたような顔をしたかと思うと、#name1#の元からするりと離れ先程のように光の屈折を操って姿を消した。どうしたのかと思わず#name1#がすぐ傍でぷかぷかと水面に浮かんでいたハスボーやウパーと顔を見合わせると、ざあざあと湖の周りの木々の葉がざわめいた。姿を消したラティオスが飛んでいるのだ。
「ラティオス、一体どうしちゃったの?」
#name1#が尋ねると、それとほぼ同時にラティオスが湖の水面すれすれを勢いよく飛び去った。湖はラティオスの起こした風によって勢いよく飛沫を上げ、それらは全て#name1#へと掛かる。ハスボー達と水遊びをしていて元から多少濡れていたとはいえ、頭から水を被った#name1#は思わず唖然とした様子で立ち尽くしていたが、はっとすると声を上げた。
「この悪戯っ子!」
湖をぐるりと旋回して#name1#の元へと戻って来たラティオスは、姿を現すと口元に両手を当ててけらけらと笑った。#name1#はそんなラティオスの腕を逃げられないようにと掴むと、きょとんとした顔で首を傾げるラティオスを尻目にハスボー達に今だと声を掛ける。#name1#の言葉の意味を直ぐに理解したハスボーとウパーがラティオスの顔目掛けて水鉄砲を浴びせると、ラティオスはまさか仕返しをされるとは思わなかったのか驚いた声を上げた。それを見て#name1#や周りにいた野生のポケモン達がけらけらと笑い声を上げると、ラティオスは再び頭を#name1#の手のひらに押し付けながらくるると楽しそうに笑い声を上げたのだった。
散々水遊びをした後、湖の岸に座って#name1#とラティオスは木の実を食べながら一休みをしていた。ラティオスが集めてきてくれた木の実は湖の水でよく冷えており、一口齧る度に豊かな香りが広がって美味しい。モモンやカゴ、オレンにオボンと様々な木の実をラティオスと半分ずつ食べながら、#name1#は隣で翼を折り畳んで寝そべるラティオスに声を掛けた。
「何だか、笑い疲れちゃったね」
ラティオスは#name1#に渡されたオレンの実の半分を口にしながら、眼を細めて頷く。#name1#はそんなラティオスの様子に顔を綻ばせながら、すぐ傍にやって来たパチリスにナナの実を渡した。そしてパチリスがナナの実を齧る様子を暫く眺めた後に再び口を開く。
「ラティオスのお陰で毎日本当に楽しいよ」
そこまで言って、#name1#はラティオスの顔に目を向けた。笑い疲れた上に遊び疲れたのか、オレンの実を食べ終えたラティオスはいつの間にやらすうすうと静かな寝息を立てている。それを聞いて思わず笑みを溢した#name1#はよく眠れるように、と、そっとラティオスの首を撫でた。
夏の午後、君と笑う/20130731
2013七夕企画
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